計画実行できる日は意外と早く来てしまった。父が隣の領へ出掛けることになり、そしてその日は良いタイミングでフレンも公休となっていた。従者とはいえ休日の一日もないわけがない、それが同じ日に当たってくれたことをグレイスは感謝した。
 週末の直前だったのも幸い。週末は街にひとが増えると聞いていた。それは街に慣れないグレイスにとってはちょっと困ることであったので、平日にあたったことを感謝しておく。
 その日は朝からこそこそと準備を整え、朝食の席でグレイスはちょっと憂鬱そうな顔をしておいた。計画通り、メイドが心配そうに「お体の具合でも優れませんか?」と訊いてくれる。
「ええ……でも大丈夫よ。月のものだから」
 いい言い訳である、この理由は。具合が悪くなっても仕方がないという理由。おまけに病気ではないのだから、お医者や薬をと言われることもない。
 こういう言い訳に使うのはどうかと思うのだが、グレイスにとって一人きりになって静かにさせてもらえるのに一番いい『理由』であったのだ。
「まぁ、それは良くありませんわ。今日はゆっくりなさってくださいまし。お勉強は……」
「日を替えてもらえるかしら?」
「ええ、それは勿論。教師にお伝えいたしますね」
 そのようなやりとりで済んでしまった。一応、具合が悪いという体だったのでグレイスは申し訳ないと思いつつも、朝食のほとんどを残すことになる。それでメイドもグレイスが本当に調子が優れないのだろうと思ってくれたらしい。
 朝食後は「お大事になさってくださいね」と部屋に入れられて、ホットミルクを出されて、一人になることができた。
 しばらく様子をうかがってから、グレイスは形だけ入っていたベッドから勢いよく出る。俄然楽しみになってきた。