「お相手様は詳しく存じないけれど、あの、賓客のお席の方なのでしょう?」
 婚約、であるのは知られているようだ。そうであれば、この場では明らかに身分が高い様子のダージルがそうなのだと察されても当たり前。
「そう、なの。……」
 グレイスは同じ返しをしたうえに、曖昧な笑みを浮かべてしまった。
 ありがとう、と言う話題なのに、どうしても喜びきれないのは仕方がないだろう。そして続ける言葉も困った。
 あの方と婚約となるの、とここで言うのははばかられた。いくら声をひそめていても、二人きりではないのだから。マリーとて、ここで詳しく話せる話題ではないとわかっているに決まっている。それで終わらせてくれた。
「楽しみにしてるわね」
 グレイスは今日の主役なのだ。話し込みたいところだし、マリーもそう思ってくれているようだったけれど、それだけで行ってしまった。グレイスはちょっと残念になる。
 このままマリーとおしゃべりでもしていれば、もう少し気持ちも落ちついただろうに。けれどそういうわけにはいかないから。