そして昼頃、父に呼ばれた。
 まだドレスではないけれど、上等の部類に入る服で支度をしてやってくるように申しつけられていたのでわかっていた。
 会うひとがいるのだ、と。
 そのとおり。広い客間には既にひとがいた。ソファにゆったりと腰掛けているのは、以前、父に婚約の話をされたときに見せられた釣り書きに載せられていた通りの人物であった。
 横にはお付きらしき、かっちりした使用人服を着ているひとたちも控えている。アフレイド家よりも上級のお家の方であることはひと目でわかった。
「娘のグレイスです」
 同じようにソファの向かいの自分の席に座っていた父が立ち上がり、グレイスを示してくる。
 言うべきことはわかっていたグレイスは、スカートを持ち上げ礼をする。
「グレイス=アフレイドと申します。どうぞお見知りおきを」
 グレイスが大人しく、きちんと挨拶をしたことに、父は満足げな顔を浮かべた。
 そして次は、ソファに座っていた男性を示した。彼も立ち上がり、姿勢を整え、礼をしてくれる。
「ダージル=オーランジュ様だ。本日はわざわざオーランジュ領よりご足労いただいた」
「お越しくださり、ありがとうございます」
 グレイスはもうひとつ礼をしてお礼を口に出す。ダージルという彼は、にこにこ笑っていた。優しそうなひとだ。
「グレイスさんだね。どうぞよろしく」