その日は朝から屋敷の中がざわざわしていた。令嬢のグレイスは細かな作業などはあるはずがないが、屋敷のひとたちは朝から仕事に大わらわだろう。
 パーティー会場の装飾やセッティング、料理の手配や仕込み……パーティーは夜からだが、支度は朝から、いや、もう前々からされていたことだってあるだろう。グレイスはその様子を眺めつつ、思った。
 自分はたくさんのひとたちの世話になっている。それは自分がこの家の、アフレイド家の令嬢だからであるに決まっているけれど、そうであれば、自分もその役目を果たすべきなのではないか、と。そういう想いが生まれていた。
 フレンが昨日伝えてくれたことから安心できて、自分が不安な気持ちだけではなく、よそに目を向ける余裕ができたからかもしれない。
 そうであれば、自分の『役目』はこのアフレイド家の存続なのであった。婿養子を迎えて、子供、できれば世継ぎになる男の子が理想的だが、そういう存在を作って、アフレイド家を存続させていていく。繁栄もさせられればもっと良い。
 そうでなければ父や親族が困るだけではなく、今、支度をしてくれている使用人だって路頭に迷ってしまうのだ。
 それなら、自分の中にあるひとつの恋なんてしまっておいて、家のために尽くすべきなのだろうか。そうすると決めてしまう気持ちはまだないけれど、選択肢のひとつとしては浮かぶようになっていたのだ。