「私もフレンが好きよ。ずっと想っていたわ」
 グレイスの言葉も自然に出てきた。
 夢ではないかと思ってしまうものの、これが現実であることなど疑いようもなかったのだ。
 優しい翠色に見つめられているから。嘘偽りのない、真摯な色。
「貴女の元にいられるように、私はラッシュハルト家に戻りました。今はフレン=ラッシュハルトと申しましたね。それは名実共になのです」
 グレイスの瞳を正面から見つめて、フレンの言ってくれたこと。
「父上に認めさせました。私の身分を。私生児であることは変わりません。継承権もありません。ですが」
 すぅ、と息を吸って、言われた言葉。力強い響きだった。
「男爵家令嬢と結ばれるには、必要なだけの身分が今はあります」
 それは爵位の大きな違いというもののためだっただろう。グレイスの家がもっと高位の貴族であったなら、私生児である息子が夫になるなど赦されるはずもなかった。
 けれど、下の身分の貴族なら。
 半分は伯爵家の血を持っている身としてなら。
 赦されるだけに値するのである。
「ですから、お嬢様」
 フレンはふと、手を伸ばした。グレイスの頬に触れる。白い手袋の手で。
 そこだけは以前とまるで変わらなかった。グレイスにとって、一番近くにいてくれるあたたかな手の感触。
「私を迎えてくださいますか」
 アフレイド家の事情から、グレイスは外へ嫁ぐことはない。一人娘なのだから。
 だから、結ばれるとしたら外からやってきた人間なのだ。
 フレンもだからこそそういう言い方をしたのだろう。
 身に染み入って、グレイスはまた胸から溢れそうなほどの熱いものを感じた。
 けれど今度は泣かなかった。
 自然に出てきたのは、やわらかな笑み。
 幸せからの、よろこびの笑み。
「ええ。私のもとに居てほしいわ」
 グレイスの返事にフレンの目元が緩んだ。愛しさの溢れていた瞳がもっと優しい色になる。
 グレイスの頬に触れる手に、力が入った。そっと引き寄せられる。
 理解して、グレイスは目を閉じた。自然にそうなったのだ。
 ふわりと触れ合ったくちびるはもう、あの雨の中のような冷たさなど持っていなかった。
 体温のままにあたたかな感触は、心配することなどもうないのだと。グレイスに確かに伝えてくれた。