フレンと二人きりになる。でもなんだか状況が違いすぎてくすぐったい。いつものように「フレン!」などと近付けるはずもないし、なにを言ったらいいのかわからない。
 それを悟ったように、動いたのはフレンからであった。グレイスの前までやってくる。
「お嬢様。このような事態になるまでお話もせずにすみませんでした」
 軽く礼をされる。グレイスはすぐに理解した。幼い頃に少しだけ話したときのことだ。
「いいえ、……私も、訊いてはいけないのかと思って、触れずにいたもの。でも、訊いておいた方が良かったのね」
 グレイスの心。フレンと会話をする間に徐々に落ちついていってくれた。
 だって、ここにいるのは確かにフレンなのだ。格好が違ったって、このひとであることは変わりやしない。
 急に、先程の比ではなく胸がかっと熱くなった。グレイスの中で熱い感情が爆発する。
「フレン!」
 それでもしっかりとした声で名前を呼ぶ。たっと床を蹴って、フレンの元へ寄る。
 フレンが腕を開くのが見えた。フレンの気持ちも理解して、グレイスは迷うことなく腕の中へ飛び込んだ。
「逢いたかったわ!」
 一番言いたかったこと。やっと言えた。
 抱きついたグレイスを、フレンはしっかり受け止めてくれた。それだけでなく、ぎゅっと強く抱きしめてくれる。
「私もですよ、お嬢様」
 雨の中、縋ったときとはまったく違っていた。フレンの行動にはひとつの迷いもなかったのだから。