「レイシスがフレンを懲戒解雇して、フレンはこの屋敷から放り出される形になったわ。幼い頃にこの屋敷に来て、ずっと暮らしていたフレンが行く場所などあるはずないでしょう」
「そう、……なりますね」
 フレンから居場所を奪ってしまったのは自分であるので、胸が痛んだ。グレイスの声は気落ちする。それを慰めるように、レイアはちょっと微笑んでくれた。
「それで、フレンはフレンのお母様の元に身を寄せていたようなのよ」
 フレンのお母様。お妾……といったか。正式な奥様ではない女性。
 でもおそらく、いくらかの身分がある女性なのだろう。今もラッシュハルト家と関連があるかはわからないけれど。それでもそれなりの屋敷かなにかに住んでいるはずだ。
 それをきっとレイアは調べ、突き止めてくれたのだ。
「勿論、一時的なもののつもりだったと思うけれど。グレイスが気にかからないはずがなかったでしょうし」
 その意味はわかる。
 フレンは約束を違えるようなひとではない。
 あのときの誓い。
 違えることなどないように、いつかはグレイスの元へ、どういう形かはわからないにしろ、来てくれるつもりだったに決まっている。
「それで、フレンの元に遣いをやって交渉していたのだけど、難儀したわ。そう簡単に応じてくれるはずなんてなかったもの。その間に、グレイスがダージル様に呼び出されたわね。婚約のこれからの話をされるのだと」
 レイアの話は続く。
 先日のグレイスのお出掛け。出遭ってしまった襲撃。
 そこへ話がやってくれば、心臓はひやっと冷たくなった。恐ろしかったことを思い出してしまって。