「フレンの出自が確かでないことは、グレイスもなんとなくは知っていたのよね」
 確かにそうだったので、グレイスはただ頷いた。
「はい。幼い頃に聞いたことですが、詳しい話は、なんだか聞いていいものかわからなくて……」
 訊いておけば良かったのだろうか、と思った。フレン本人にでなくとも、例えば父にとか。目の前のレイアにとか。
 そうすればなにか変わったのかも、しれなかったのだろうか。
「フレンの生まれはね、ラッシュハルト家なの」
 レイアの切り出したこと。
 聞いたことのあるような、ないような……。
 グレイスはちょっと考えてしまった。しかしそこで既にわかった。
 なにか、名のある家の息子だったのだろう。よって驚いてしまう。
「ラッシュハルト家は私たちの家とは表立った関わりがないし、オーランジュ領よりずっと離れたところにある領だから詳しくないわよね。大きく豊かな領で、名産はワイン……それはともかく」
 レイアは少しだけ説明を入れてくれたけれど、そんなことは些細だった。
「その国では随一の領で、伯爵家にあたるお家なの」
 グレイスは仰天してしまう。
 伯爵家?
 グレイスの家、アフレイド家は男爵家。貴族の中では一番下の爵位なのだ。
 伯爵家はそれよりずっと上の階層に位置する称号。そう、ダージルのオーランジュ家が同じ、伯爵家にあたるもの。
 つまりフレンは、この家で使用人などとして働いてはいたものの、そんな身分など卑しすぎる、いい家の息子、ということだろうか。
「これは機密事項だから、外で話してはいけないわよ」
 困惑したグレイスに、そう前置きをして、レイアは続けた。
「ラッシュハルト家の息子であることは確かであるけれど、継承権はないの。 このような言い方は失礼なのだけど……領主様の私生児であられるのだから」
 私生児……。
 グレイスには馴染みのない言葉だった。グレイスに通じなかったのはわかったのだろう。レイアはわかりやすい言葉で補足してくれた。
「奥方ではない、そうね、お妾か外の女性か、そういう方が生んだ子という意味よ」
 それなら理解できた。グレイスは違う意味で仰天する。
 奥方以外の女性が領主の子を宿すというだけでも驚きだったのだ。それは箱入り娘であったグレイスには信じられないことであった。
 けれどレイアの口ぶりからするに、望ましいことではないものの、そして機密になるようなことであるものの、ありえなくはないことのようだ。