訊きたかったけれど、そんな言葉は出てこなかった。
 助かった、のだ。
 なにがどうなったのかわからないが、助かったのだ。
 一気に体ががくがくと震えてくる。
 フレンが慌てた様子でグレイスの体を支え直し、そしてそろそろと地面に下ろした。そのまま腕に抱いて上体を支えてくれる。
「驚かれましたでしょう。もう大丈夫です」
 周りはざわざわしていた。叫び声や怒鳴り声がまだ響く。
 加勢にきた最初の一行だけでなく、もっとたくさんの馬車が走ってくる音もする。賊の捕縛にかもしれない。
「……フレン……どう、して……」
 グレイスはやっと、口を開いた。くちびるは震えてしまったけれど。
 それでもフレンの目をじっと見つめる。フレンはグレイスを安心させるように、笑みを浮かべてくれた。
「言いましたでしょう。わたくしはいつでも、お嬢様のお傍に」
 グレイスは目を見開く。
 誓ってくれた、言葉。
 こんなところで聞くなんて思わなかった。
 それに、本当のことにしてくれるなど思わなかった。
 目を丸くしたグレイスの体を、フレンはそっと抱き寄せ、胸に強く抱いてくれた。
「良かったです。ご無事、で」
 あたたかな腕に包まれて、護られて。
 グレイスは意識する前に手を伸ばして自分からもフレンに抱きついていた。きつくしがみつく。
「フレン……!」
 怖かったわ、助けてくれてありがとう、逢いたかった。
 言いたいことなどたくさんあった。けれどありすぎて出てこない。
 ただ、フレンに抱きつく。そのあたたかな体温だけですべて伝わるように感じてしまった。
「お嬢様。……帰りましょう」
 グレイスをどのくらい抱いていてくれたのか。フレンはやがてそっとグレイスを離し、静かに伝えてくれた。