夢を見た。随分昔の……もう十年以上前になる頃の夢。
 グレイスがまだ子供の頃だったときのこと。

「は、はじめまして!」
 緊張した面持ちの少年と初めて出逢った。やわらかな金髪に優しい翠色の瞳を持った、まだ大人には程遠い少年だ。
 背も低く、傍にいたグレイスの父、領主のレイシスの肩までもなかっただろう。
 父に呼ばれて、執事長に連れられてやってきたグレイスは、父の部屋で初めてその少年に出逢った。
「グレイス。ご挨拶は」
 父に促されて、まだ子供のグレイスはぺこりとお辞儀をした。
「はじめまして」
 当時から物怖じしない性格だったグレイスはしっかり挨拶を口にして、執事長の陰に隠れることもなく、じっと少年を見つめた。むしろ少年のほうが臆した様子を見せる。
「グレイス、この子はフレン=グリーティア。今日からこの屋敷で暮らすことになった」
 父の説明に、グレイスは小首を傾げた。
 このおうちで?
 その様子に、父はもう少しわかりやすい説明をくれる。
「この屋敷で働くのだ。使用人だ」
 そう言われれば幼いグレイスにも理解できた。屋敷で働くひとのことをそう呼ぶことはもう知っている。
 当時のグレイスには、単に自分たちのお世話をしてくれるひとたち、という認識だったけれど。
「わかりました」
 あどけない口調で言ったグレイス。丁寧な言葉遣いはまだ完璧なものではないが、仮にも貴族の令嬢なのだ。幼くとも言葉は丁寧にするよう躾けられている。