ダージルはグレイスの言葉に眉を寄せた。はっきりと不快だという表情になる。
今まで丁寧な態度で接してくれていたダージルのこのような様子、初めて見る。グレイスとの今の状況からしたら、まだ優しいほうだったかもしれなかったが。
「嘘をつかないでくれるか。恋仲でないなら抱擁などしないだろう」
もう一度、グレイスの胸がひやっとした。今度ははっきり痛みもついてきた。
見られていた、ようだ。
もしかしたら、ダージルはフレンがグレイスの元にやってきたあとから追いかけてきて、見つけていたのだろうか。
これは羞恥よりも恐怖が強かった。
それでも説明しなければいけない。嘘をついても意味がないし、誤解もされたくない。
グレイスはからからになった喉で無理やり唾を呑み込んで、もう一度くちびるを開いた。
「本当に違うのです。……わたくしが、……想っているだけ、です」
グレイスの釈明に、ダージルは黙った。口をつぐんでしまう。
わかっただろう。フレンと恋仲なのではなく、グレイスが片恋をしているだけなのだと。
少なくとも、関係としてはそのような状況なのだと。
そうであれば、ダージルからの取り方も少し変わってくることになる。
沈黙が落ちた。グレイスはワンピースの膝の上で、手をぎゅっと握っているしかない。
恐ろしいと思う。
今すぐ出ていけと言われるかもしれない。
もしくは、ぶたれたりするかもしれない。
そうされても仕方がないとも思うけれど。
一体どのくらい沈黙が続いただろう。唐突にダージルが口を開いた。
「正直に述べると、失望したよ」
どくん、とグレイスの心臓が跳ねた。言われて当たり前のことなのに。
「きみも結婚について、前向きでいてくれると思っていた。そりゃあ、貴族の家のことだ。結婚と恋が結びつくかは別だろう。実際、私ときみとて婚約が先立っていたのだから」
グレイスはただそれを聞く。口を挟むことなどできやしない。
「だから別のところで想っていた相手がいるというのは、別段おかしいとは思わない。従者というからには付き合いも長いだろうし」
ダージルは一人で話を続けた。特にグレイスには返事などを求めてこない。
「だが私と婚約を交わしたというのにそれを引きずるのかい。受け入れたのなら、このようなことは困るのだ」
今まで丁寧な態度で接してくれていたダージルのこのような様子、初めて見る。グレイスとの今の状況からしたら、まだ優しいほうだったかもしれなかったが。
「嘘をつかないでくれるか。恋仲でないなら抱擁などしないだろう」
もう一度、グレイスの胸がひやっとした。今度ははっきり痛みもついてきた。
見られていた、ようだ。
もしかしたら、ダージルはフレンがグレイスの元にやってきたあとから追いかけてきて、見つけていたのだろうか。
これは羞恥よりも恐怖が強かった。
それでも説明しなければいけない。嘘をついても意味がないし、誤解もされたくない。
グレイスはからからになった喉で無理やり唾を呑み込んで、もう一度くちびるを開いた。
「本当に違うのです。……わたくしが、……想っているだけ、です」
グレイスの釈明に、ダージルは黙った。口をつぐんでしまう。
わかっただろう。フレンと恋仲なのではなく、グレイスが片恋をしているだけなのだと。
少なくとも、関係としてはそのような状況なのだと。
そうであれば、ダージルからの取り方も少し変わってくることになる。
沈黙が落ちた。グレイスはワンピースの膝の上で、手をぎゅっと握っているしかない。
恐ろしいと思う。
今すぐ出ていけと言われるかもしれない。
もしくは、ぶたれたりするかもしれない。
そうされても仕方がないとも思うけれど。
一体どのくらい沈黙が続いただろう。唐突にダージルが口を開いた。
「正直に述べると、失望したよ」
どくん、とグレイスの心臓が跳ねた。言われて当たり前のことなのに。
「きみも結婚について、前向きでいてくれると思っていた。そりゃあ、貴族の家のことだ。結婚と恋が結びつくかは別だろう。実際、私ときみとて婚約が先立っていたのだから」
グレイスはただそれを聞く。口を挟むことなどできやしない。
「だから別のところで想っていた相手がいるというのは、別段おかしいとは思わない。従者というからには付き合いも長いだろうし」
ダージルは一人で話を続けた。特にグレイスには返事などを求めてこない。
「だが私と婚約を交わしたというのにそれを引きずるのかい。受け入れたのなら、このようなことは困るのだ」