ぼんやりと。グレイスは窓の外を見ていた。
 そこにはなにもない。世界のすべてが色褪せてしまったようだった。
 だって、フレンがいないのだから。彼がいない世界がこんなにも無色だなんてグレイスは知らなかった。
 楽しかった日々。全部、全部フレンがいてくれたからだったのだ。いなくなってしまわれてから気付くなんて、愚か過ぎたと思う。
 自分があれほど衝動的に行動しなければ良かったのかと思った。
 けれど、もう抑えておけなかったのだ。それに今更悔やんでも遅すぎる。
 父に告白し、叱責を受けてから数日。
 グレイスは部屋に閉じこもった。
 今、父に外出など許してもらえるはずはなかったが、それ以上に外に出たくなかったのだ。
 閉じこもっていたかった。
 自分の中に。
 フレンがいない世界になど出ていきたくない。
 いつまでもこうしていることはできないとわかっていても。それでも、せめて今だけは。
 涙は出ない。もう出尽くしてしまったのだ。ここ数日で。グレイスに腫れた目元だけを残して。
 グレイスに起こったこと。既に屋敷の使用人たちにも伝わってしまったようだった。
 それはそうだろう、フレンが突然懲戒解雇などされたのだ。執事長は知らないはずもないし役職ある使用人たちだって。
 そしてそれであれば、下の者にも伝わってしまって当然。今頃、使用人の間でひそひそと噂でも行き交っているのだろう。
 そんなこと、気分の良いものではない。むしろ気分は最悪になるようなことだ。
 でもグレイスはそれを責められるはずがなかった。なにしろすべて自分の蒔いた種なのだから。その報いを受けているようなもの。
 だから耳に入れないようにするだけ。それしかできることはない。
 勿論、グレイスに一番近い、お世話係のメイドのリリスも知っている。
 けれど流石にグレイスに掛ける言葉もないだろう。グレイスから話せば聞いてくれるとは思うが。
 グレイスは話す気もなかったし、そういう気分でもなかった。よって、知られている、心配されているとはわかっていても、黙っているしかなかったのだ。リリスに心配そうな視線を向けられるのを受けとめるばかり。
 窓の外にはあずまやがあった。窓が庭に面しているのだ。
 あのとき。
 グレイスがフレンに、婚約のことを知られたと知ったとき。
 部屋を飛び出して、あそこへ逃げ込んだ。
 あのとき、フレンは迎えに来てくれなかったのだ。それを、今の独りぼっちの状況に重ねてしまう。
 馬鹿馬鹿しい、と思う。あのときとは違うのだから。
 あのときフレンはあとできちんと話をしてくれた。グレイスの気持ちを汲んでくれた。
 けれど今はいつまで経ってもそういうことにはならないのだ。
 ……もういない、から。