必死で自分に言い聞かせて、もう「失礼いたします」などと退室の挨拶もできるはずがなく、ふらふらと父の部屋を出た。
 ばたんと扉を閉じて、グレイスは体からふっと力が抜けるのを感じた。ぐずぐずとその場にへたりこんでしまう。
 頭の中は霞みがかかったようになっていた。それは雨の中で独りだったときとは違う意味で。
 自分は本当に今、独りになってしまったのだ。
 フレンはもう居ない。自分がそうさせた、せいで。
 じわっと熱いものが喉の奥に込み上げた。そのままぼろぼろと涙になって落ちてくる。
「お嬢様!?」
 遠くから声が聞こえた。女性の声。
 たったっと駆けてくる音が聞こえ、近付いてきて、そしてその人物は目の前にしゃがんだようだった。
「お嬢様、どうされました……お加減でも……」
 間近でははっきりわかった。リリスだ。グレイスの異様な様子に焦ったような声で、肩を支えてくる。
 しかし返事などできるものか。涙も落ちるままになるしかない。
 ぐったりとしてしまったグレイス。リリスは慌てた様子で声を上げた。
「誰か! 誰か、来てくださいませ! お嬢様が……!」
 ばたばたとやってきたのは屋敷の使用人たち。グレイスの様子を見て、一人の執事がグレイスを抱きあげた。部屋に運んでくれる。
 リリスがおろおろしつつもついてきて、ベッドに寝かされてからは、彼女が世話をしてくれた。
 そうされてもグレイスはぐったりしたままであった。
 もう、今は、なにも考えられなかったのだ。