それからグレイスの意識は数日おぼつかなかった。ベッドから起き出せなかったほどである。雨に打たれたせいでしっかり熱を出してしまったのだ。完全に風邪である。
 あのあとフレンはグレイスを離し、「……帰りましょう」と言った。そして、それだけだった。
 そのまま屋敷に連れ帰られて、マリーやダージル、使用人たちに大いに心配されながら部屋に入れられて、風呂に入れられて、あたためられて。
 すぐベッドに押し込まれたのだけど、それではどうも追いつかなかったようで。かすむようになっていた意識は翌日、しっかり熱となって表れていた。
 外の具合も芳しくない。まだ暗雲が去らないままだ。豪雨ではないものの、さぁさぁと確かに降っている。
「ごめんなさいね、この旅行のあとすぐに用事を入れてしまったの」
 二日後、マリーは後ろ髪を引かれる思いで、といった顔でロンと共に帰ってしまった。元々の滞在予定は本日までなのだったからなにもおかしくないのだが。
 グレイスは辛いながらもなんとかベッドの上に上半身を起こして「いいえ、むしろごめんなさい。ご心配をかけて」と謝った。完全に自分の行いのせいでこんな事態になってしまったのだから。
「早く良くなってね。またお見舞いに行くわ」
 そんなグレイスの頬にひとつキスをしてくれて、帰っていった。グレイスはほっとするやら寂しくなるやらだった。
 寝込んでから帰ってしまうまで。どうして雨の中、外に居たのかとは聞かれなかった。
 なにか事情があると察してくれたのだろう。マリーはそういうひとだ。あとで訊かれるかもしれないけれど、とりあえず今は。
 グレイスにとっても助かることであった。まだ自分の中でだって整理がつかないのだ。
 翌日にはダージル一行も引きあげていった。同じく家で用事があるとのことで。