誕生日パーティーの少し前であった。グレイスがフレンとパーティー中の行動の打ち合わせをしたのは。
今日は試着のドレスではなく、普段着の小花柄のワンピースを着ていたけれど、なんとなくあのドレスがまとわりついている気がした。ほかの男性との婚約をされる象徴のように感じてしまったドレス。
「領主様のご挨拶のあとは、乾杯……そしてご親族へのご挨拶から……」
革張りの上等なノートカバーをかけた計画表をフレンが読み上げ、説明してくれる。
フレンも普段着。いつもどおりの黒のかっちりした燕尾になっている服を着ていた。
でもパーティーとなればもう少し格式のある礼装をして、グレイスの横に立ってくれる。
……今まで通りフレンがエスコートしてくれるのだろうか。今までは従者としてでも自分をエスコートしてくれる、そんなことだけが嬉しかったのに。
これからは別の男性、つまり夫となる男性にエスコートされることになるのだろうか。今回はただの婚約だからそれはないかもしれない。けれど今後のことを思うと。想像だけでも既に心に陰りが生まれそうだった。
「……お嬢様? 聞いておられますか?」
フレンが計画を話すのを中断してグレイスに尋ねてきて、グレイスはやっと、はっとした。
聞いていなかった、と思う。けれど正直に言うのはためらわれた。
「聞いてたわ」と言うけれど、それは通用しなかった。
「上の空のお顔をされていましたよ」
ちょっと目をすがめて言われてしまう。グレイスは黙るしかなかった。幼い頃から見られているだけある。言い訳をするときの様子などお見通しということだ。
「体調でも優れませんか?」
けれどフレンが言ったのはそれだった。叱ってもいいのに、グレイスのことを心配してくれる言葉。
体調が悪いわけではない。体調は悪くはないけれど……。悪いのは、心の調子が、だ。
グレイスはごくりと喉を鳴らした。計画はまだ読み上げられている途中で、一応、まだ婚約云々の話題までいっていないことだけはわかる。
それを聞いてしまうのだろうか。決定打をほかならぬフレン本人から。
聞きたくない、と思う。
きっと「おめでとうございます」と言われてしまうから。そんなこと言われたくないのに。
けれど向こうから言われるより、こちらのほうがずっとましな気がする。よって、震えるくちびるを思い切って開く。
「フレン、パーティーのことなのだけど」
今日は試着のドレスではなく、普段着の小花柄のワンピースを着ていたけれど、なんとなくあのドレスがまとわりついている気がした。ほかの男性との婚約をされる象徴のように感じてしまったドレス。
「領主様のご挨拶のあとは、乾杯……そしてご親族へのご挨拶から……」
革張りの上等なノートカバーをかけた計画表をフレンが読み上げ、説明してくれる。
フレンも普段着。いつもどおりの黒のかっちりした燕尾になっている服を着ていた。
でもパーティーとなればもう少し格式のある礼装をして、グレイスの横に立ってくれる。
……今まで通りフレンがエスコートしてくれるのだろうか。今までは従者としてでも自分をエスコートしてくれる、そんなことだけが嬉しかったのに。
これからは別の男性、つまり夫となる男性にエスコートされることになるのだろうか。今回はただの婚約だからそれはないかもしれない。けれど今後のことを思うと。想像だけでも既に心に陰りが生まれそうだった。
「……お嬢様? 聞いておられますか?」
フレンが計画を話すのを中断してグレイスに尋ねてきて、グレイスはやっと、はっとした。
聞いていなかった、と思う。けれど正直に言うのはためらわれた。
「聞いてたわ」と言うけれど、それは通用しなかった。
「上の空のお顔をされていましたよ」
ちょっと目をすがめて言われてしまう。グレイスは黙るしかなかった。幼い頃から見られているだけある。言い訳をするときの様子などお見通しということだ。
「体調でも優れませんか?」
けれどフレンが言ったのはそれだった。叱ってもいいのに、グレイスのことを心配してくれる言葉。
体調が悪いわけではない。体調は悪くはないけれど……。悪いのは、心の調子が、だ。
グレイスはごくりと喉を鳴らした。計画はまだ読み上げられている途中で、一応、まだ婚約云々の話題までいっていないことだけはわかる。
それを聞いてしまうのだろうか。決定打をほかならぬフレン本人から。
聞きたくない、と思う。
きっと「おめでとうございます」と言われてしまうから。そんなこと言われたくないのに。
けれど向こうから言われるより、こちらのほうがずっとましな気がする。よって、震えるくちびるを思い切って開く。
「フレン、パーティーのことなのだけど」