帰り道、王子は自転車を押して、わたしはその隣をゆっくり歩く。

海沿いの道を街灯の灯りが照らしている。

まだ家に帰りたくなくて、風に吹かれる王子の横顔をそっと見上げた。

王子の口元はいつも微かに微笑んでいるみたいに口角が上がっているのに、その横顔はどこか寂しそうに見える。

癒せない傷を抱えた人みたいに。

「王子はバライカ王国を再興したいと思う?」

二人で灯台の下に座って海を見る。一番星が三日月と並んで空の向こうに輝いている。

王子は見えない祖国を懐かしんでいるんだろうか。

「この地球上のどこにも、もうバライカ国を作れるような場所はないよ」

「そんなの分かんないよ! どっかにあるかもしれないし、バライカがまた浮かんでくるかもしれないじゃん」

気休めって思われたって、わたしは王子に夢を持っていて欲しい。

そしてそんな王子の隣を歩いていたい。

だから、わたしも王子にだけ本当のことを知っていて欲しいと思った。わたしの秘密。わたしも王子と同じように故郷を失ったこと。

「わたしも生まれた星からここに移り住んだの」