わたしはこっそりスマートホンで検索。答えはすぐに見つかった。

でも自分の言葉でそれを説明するのは難しい。

横目でチラリと王子の様子を伺う。

ノートに目を落として、真剣に何かを書いている横顔は映画のワンシーンみたいに絵になる。

光が王子の銀色の髪を輝かせ、長い睫毛の下で影を落とす。

形の良い額から鼻筋、柔らかそうな唇まで、完璧なラインを描いていて、しかもニキビなんかきっとできたこともない白くて透明な肌。

わたしはなかなか治らないおでこのニキビをつい触ってしまいながら、慌てて前髪を下ろした。

テーブルの一番遠くに置かれたオレンジジュースは、空中の水分を吸い寄せたみたいに結露でテーブルを濡らしている。

王子はバライカ王国が沈む直前に、日本へと移住してきた。

生まれて初めて乗った飛行機から、自分の国を見下ろして何を思ったんだろう。

自分の国に二度と帰ることができない。

それはどんなに寂しいことだろう。

日本にもダムに沈んだ村があるのは知っている。

永遠に続くものなんてない。

地球だっていつかは無くなっちゃうんだ。それはわたしの死んだずっとずっと後のことだとしても、何回目かに生まれ変わった自分とか、子孫とか、そういう人たちがその瞬間に立ち会うことになるのかもしれない。

ぼんやりと王子の横顔を見ていたわたしに気付いて、王子がオレンジジュースをわたしの前に差し出した。

「そんな物欲しそうに見られてたら勉強できない」

なんでも知ってる王子だけど、意地悪な王子のたまに見せてくれる優しい笑顔に、わたしの脳が溶けそうなのはきっと知らない。