「じゃあ王子、なんで日本語喋れんの?」

「祖母が日本人だったから」

平凡な日本の高校生として、一緒に受験勉強してるバライカ王国の王子。

いや、元王子。

「なんでバライカ王国無くなっちゃったの?」

「……海に、沈んだから」

「それって、地球温暖化のせいで北極の氷が溶けて海面が上昇してっていうあれ?」

わたしはテレビかなんかでちらっと見たのを思い出して、得意げにシャーペンを振りながら言った。

「千晶はアルキメデスの原理を習っただろ?」

なんだっけ?

シャーペンのお尻で顎をぐいーっと押し上げて天井を見上げたわたし。

王子は呆れたようにデコピンを降らせた。

「いったぁーい!」

おでこを押さえて叫ぶわたしに王子は追い討ちをかけるように、パーカーのフードを被せ、おまけに紐をぐいっと引き絞った。

短気な王子め。

フードを戻して、ぐしゃぐしゃになった髪を整えている間に、王子はジュースを買って戻ってきた。

いつものオレンジジュースとアイスコーヒー。

透明なカップに蓋が付いていて、切れ込みにストローが刺してある

「千晶はこの氷が全部溶けるまで飲んじゃダメ」

王子はそう言って自分だけ美味しそうにアイスコーヒーを飲んだ。

「えーひどい! 薄くなっちゃうじゃん」

手を伸ばすわたしから、ひょいと避けてカップを持ち上げる。

王子の長い腕にそれをされたら、小学生並みのわたしの身長じゃあとても届かない。

「千晶、北極の氷が溶けても海面は上昇しない」

「え、なんで?」

「分かったらジュースあげる」