「私は諦めてなんていませんよ」
「本当に?」
「ええ、もちろん」

 私は自信たっぷりに答えた。
 すると、ゼノスは怪訝そうな顔に。

 なにか策を残しているのか?
 それとも、ただのハッタリなのか?
 その判断がつかなくて、迷っている様子だ。

 安心してほしい、と言うのも変な話だけど……
 私は本当に諦めていない。
 そして、今後の方針も、今だけど思いついた。

 うまくいくかどうか、それは未知数だけど……
 成功すれば、確実に破滅を回避できるだろう。

 と、いうわけで。

「ところで、ゼノスは今、お時間はありますか?」
「はい?」
「ですから、お時間はありますか? 神様的な仕事が詰まっていて、余裕がない感じですか?」
「そんなことはないわ。私は邪神ではあるものの、優秀なの。突発的な事態に対処できるように、ある程度の余裕は常に持たせているわ」
「なら問題ありませんね」

 私はゼノスに手を差し出した。

「私と一緒に散歩をしませんか?」
「はぁ?」



――――――――――



「どうですか? この公園は自然が豊かで、とても綺麗でしょう。散歩をするにはピッタリの場所なのですよ。それと、恋人達の憩いの場としても有名ですね」
「……」
「あら、どうされたのですか? なにやら仏頂面をしていますが」
「あのね……」

 隣を歩くゼノスは、ピタリと足を止めた。
 そして私を睨みつける。

「なぜ、私が散歩に付き合わないといけないのかしら?」
「あら。私、散歩をしましょうと言ったはずですが? そして、あなたはついてきた。それは了承と捉えて問題ないのでは?」
「ぐっ」

 ゼノスが苦い顔に。

 たぶん……彼女は、本当に散歩をするとは思っていなかったのだろう。
 散歩というのは名目。
 私に別の目的があるに違いない、と深読みしていたのだろう。

 でも、残念。
 別の目的なんてない。
 強いて挙げるのならば、言葉通り、ゼノスと散歩をすることが目的だ。

「どうして私と散歩を?」
「秘密です」
「……素直にしゃべらないと消し飛ばすわよ?」

 ゼノスが真顔に。
 そして、右手によくわからない光が収束されていく。

 魔法?
 どちらにしてもやばい。

「ちょっと、ちょっと。いきなり癇癪起こさないでください。神様なのだから、もっと心に余裕を持ってくださいよ」
「あなたが苛立たせるのが悪いのよ」
「まったく……」

 子供みたいな神様だ。

「あなたを散歩にお誘いした目的は、大した理由はありません。単純に、仲良くなりたいと考えただけです」
「仲良く……?」
「あなたが言うように、現状、ヒーロー攻略はうまくいっていません」

 アレックスとジークからは疎まれ。
 ネコは未登場。
 エストとは友好的な関係を築けたと思うが、まだ友達の範囲内。
 ユーリは知り合いというくらい。

 エストとユーリに狙いを絞ればなんとかなるかもしれないが……
 ユーリはナナの想い人。
 他人の恋路を邪魔してまで攻略するつもりはない。

 私もユーリが好きなら、競ったかもしれないが……
 そうではなくて、ただの打算なのだから。

 ……っていうことを自覚したら、他のヒーローも攻略する気がなくなってしまった。
 打算で始める恋というのは、ちょっと避けたいところだ。
 一応、これでも乙女なので。

「と、いうわけで……しばらくは様子見をすることにしました」
「はぁ……」
「私が本気で誰かに惚れることがあれば、その時はがんばるつもりです。ただ、今はそういう気にはなれなくて……」

 打算で恋をしたり。
 誰かの恋路を邪魔したり。
 そういうことは避けたい。

 でも、このままだと破滅を迎える。
 死にたいわけではないので、それも避けたい。

「あれもこれも避けたい。わがままね」

 私の心を読んだ様子で、ゼノスが呆れた様子で言う。

「そうですね、私はわがままです」
「で、どうするつもり?」
「あなたを攻略することにしました」

 そう言って、私はゼノスを指差した。