次の休日。
 私は約束の時間よりも1時間ほど早く家を出た。

 ナナは恋愛に奥手で……
 それでいて、約束事はきっちりと守る人だ。

 初デート。
 相手は密かに想っていた大事な人。

 絶対に遅れてはいけない。
 それと、気持ちが焦り、時間まで待っていることができない。
 きっと、時間よりも早く待ち合わせ場所に……

「いましたね」

 待ち合わせ場所の公園に行くと、予想通り、ナナの姿があった。
 ソワソワと落ち着きのない様子でベンチに座っている。

 ちなみに、ユーリはいない。

 彼は約束の時間5分前に来るタイプだ。
 それ以上でもそれ以下でもない。

「おはようございます、ナナ」
「あっ、アリーシャさん!」

 私に気づいたナナが、慌てた様子で立ち上がる。

「どうして……? まだ、時間には早いのに」
「それを言うのなら、ナナもそうじゃないですか」
「私は、その……待ち焦がれてしまい、つい……」

 いじらしい。
 そして、愛らしい。
 フィーほどではないけれど、抱きしめたい、って思うかわいらしさだ。

 これならうまくいくだろう。
 普通の男性なら、ナナと一緒にいて好意を持たないわけがない。

 今日一日で恋愛感情にまでは発展しないだろうけれど……
 知り合いから気になる関係には進展すると思う。

 だから……
 おじゃま虫となりそうな私は消えなければならない。

「ごめんなさい」
「え? と、突然、どうしたんですか……?」
「急用ができてしまい、今日は参加できなくなりました」
「そ、そうなんですか……? ざ、残念です……せっかくの……」
「あら。私は参加できませんが、ナナはそのままクロムウェル先生と買い物をすればいいと思います」
「え?」
「二人で参考書を見て、それから、ついでにお食事などをしたらいいと思います。今日のお礼、と言えばクロムウェル先生も断らないでしょう」
「それじゃあ……あっ、まさか、そのために……」

 私のやろうとしていることに、ナナは気づいたらしい。

 目を丸くして驚いて……
 それから、ぺこりと頭を下げる。

「ありがとうございます……!」

 このチャンス、逃すつもりはないらしい。

 うん。
 そうやって、したたかでないとね。

「がんばってくださいね?」
「はい!」

 簡単な激励をして、私は公園を後にした。

「さて」

 これからどうしようか?

 ナナとユーリの様子を見守っても良いのだけど……
 それは、あまりに無粋というものだろう。

 うまくいくように応援したり、時にアドバイスもしたい。
 ただ、なんでもかんでもしていたら意味がない。
 ある程度のセッティングはするものの、そこから先は自分でがんばってもらわないと。

「散歩でもして、のんびりしましょうか?」
「なにしてんの?」
「ひゃっ!?」

 突然、背後から声がした。

「ゼノス!?」

 慌てて振り返ると、そこには、なにやら呆れた様子の邪神が。

「と、突然声をかけないでください。驚くじゃないですか」
「気配は察していましたよ、とか言うものじゃないの?」
「私は悪役令嬢であって、勇者とかそういうものじゃないんですから。気配なんてわかりませんよ」
「ふふ。まあ、あなたの反応が楽しかったから、よしとするわ」

 私はよしとしないのだけど?

「突然、なんですか? まさか、私を驚かすためだけに現れたのですか?」
「それもあるわ」
「あるんですね……」

 反射的にジト目を向けてしまうものの、ゼノスは涼しい顔だ。

 さすが邪神。
 人の敵意や悪意なんて慣れているのだろう。

「あなた、やる気はあるの?」
「なんのことですか?」
「本当に破滅を回避するつもりはあるの? 最近のあなたを見ていると、まったくやる気がないように見えるのだけど」
「あぁ」

 納得だ。
 確かに、ゼノスから見れば、私はやる気がないように見えるだろう。
 なにしろ、ヒーローの一人であるユーリを他の子とくっつけようとしているのだから。

「私は、あなたがもがいてあがいて、必死に助かろうとするところが見たいの。それなのに、諦めてしまっては困るわね。興ざめもいいところだわ」
「別に諦めたわけではありませんよ」
「ヒーローを攻略しないのに?」
「それは……」

 ユーリの攻略を諦めたのは確かなので、反論できない。

 ただ、破滅を受け入れたわけじゃない。
 破滅なんてまっぴらごめんだ。
 どうにかして回避したいという気持ちは今も変わらない。

 そのためには……

「……あ」

 ふと、閃いた。