放課後。
 そして、普段は使われていない空き教室。

 そこに、私とフィー。
 それと、ナナとユーリの姿があった。

「それでは、補習を始める」

 壇上に立つユーリは、教科書を片手にそう言った。

 ユーリは教育実習生なので、こちらから動かないと接点が生まれない。
 なので、勉強の相談をするフリをして、こうして接点を作ったというわけだ。

 ちなみに、私とフィーが同席しているのはナナのため。
 一人では不安というのと……
 何度も何度もナナだけが突撃していたら、怪しまれてしまうかもそれない。
 それを防ぐためのカモフラージュというわけだ。

「ふむ、それにしても……」

 ユーリは、どこか感心した様子で私を見た。

「どうしたのですか?」
「いや、なに。こうして、貴重な放課後を使い補習をお願いするなんて、君は意外と真面目な生徒なのだな。感心していたのさ」
「あ、ありがとうございます……」

 その評価はうれしいのだけど、今回は、ナナの方を見てほしい。
 私はあくまでもおまけだ。
 今回、ユーリを攻略することはもう諦めた。

 彼の私に対する評価は悪い。
 これからの行動で挽回することは可能だろうけど……

 でも、それはナナの想いを無視して動かなければいけない。

 彼女は、純粋な行為でユーリを見ている。
 しかし私は、破滅を回避するためという打算がある。

 世の中、綺麗事だけではないのだけど……
 でも、恋愛くらいはピュアな世界であってほしいと願いたい。
 そう祈りたい。

 だから、私はナナの想いを無視するような、踏みつけるようなことはしたくない。
 だから、全力で応援すると決めた。

 その結果……



――――――――――



「ふむ。シュトライゼールは優秀なのだな。乾いた砂が水を吸収するように、私が教えたことをどんどん身にしていっている」
「そ、そんなことは……!」
「謙遜する必要はない。私は、私が感じた素直な感想を口にしているだけなのだから」
「あ、ありがとうございます……」

 ナナは顔を赤くして、ものすごく照れていた。
 かわいい。

 こんなところを見ていると、やっぱり応援したくなる。

「クラウゼンも優秀だ。しかし、補習を必要としないほど、基礎がしっかりとしているようだが……」
「あら、基本は大事です。それに、繰り返し学ぶことで新しい発見があったりしますからね」
「そうだな。そういう思考は大事だ」

 真面目に補習を受けて、今日で一週間。
 ユーリは私だけではなくて、ナナにも目を向けるようになった。

 今は勉強絡みの会話だけだけど……
 補習が終わった後などは、ちょっとした世間話もするようになった。

 二人の仲は順調に進展していると考えていいだろう。

 とはいえ。
 ようやく知り合いになったくらいで、恋人関係には程遠い。

 ナナは奥手で、ユーリは真面目。
 運命で二人が結ばれることになっていたとしても、このままのペースだと、付き合うまで数年はかかりそうだ。

 それはもったいない。
 せっかくの青春、学生時代に味わうべきだ。

 というわけで、一計を案じることにした。

「では、今日の補習はここまでとする」
「「はい」」

 私達は礼をして、勉強道具を片付ける。
 その途中、私は彼に声をかけた。

「ところで……クロムウェル先生」
「ん? どうした? わからないところでも?」
「いえ、そういうわけではありません。今度の休日、お時間はあったりしないでしょうか?」
「今度の……その日なら特に予定はないが」
「なら、参考書選びに付き合っていただけないでしょうか? 私とナナさんで色々と探しているのですが、なかなか良いものが見つからず。アドバイスをいただけると助かるのですが」
「なるほど、そういうことか」
「えっ」

 ユーリが納得して、ナナは、そんな話聞いていないと驚いていた。

 それはそうだ。
 今、考えついたのだから。

 この機会を利用して、二人の仲を一気に縮めてしまう。
 それが思いついた作戦だ。

「ふふ」

 たぶん、私は今、とても悪い顔をしているだろう。
 悪役令嬢らしく、裏であれこれと画策しましょうか。