悪役令嬢の私ですが、メインヒロインの妹を溺愛します

 ゼノスからスマホをもらい、三日が過ぎた。

 その間、フィーの愛らしい姿を撮影して……
 でも、それだけで終わらせない。

 せっかく口八町でスマホという、小型パソコンのようなアイテムを手に入れたのだ。
 この世界においては、完全なオーバーテクノロジー。
 これを駆使して、事態を打開したいところなのだけど……

「それにしても、少し分が悪いですね……」

 私の悪評は日に日に増して、学院中を流れまわっている。

 ゼノスはもうつまらない小細工はやめただろうが……
 一度流れた悪い噂というものは、そう簡単に消えない。

 あたかも真実のように人から人へ伝わり、広がり……
 私の学院における株価は、絶賛、マイナス値だ。

 どうにかしないといけないのだけど、個人でできることはたかがしれている。
 こういうものは力で押さえつけることは不可能。
 根本的な問題を切除しないといけないが……さて、どうしたものか?

「あれが……」
「この前も……」
「イヤね……」

 現在進行系で私の悪評はうなぎのぼり。
 今も、学院を歩いていると、そこらの生徒達がひそひそ話を始めるほどだ。

「頭が痛いですね……」
「アリーシャ・クラウゼン」

 ふと、名前を呼ばれた。
 振り返ると、メガネをかけた教師……らしき人が。

 はて?
 あのような人、この学院にいただろうか。

「少し話がある、ついてきなさい」
「わかりました」

 ここまで堂々としているのなら、不審者ということはあるまい。
 たぶん、私の知らない教師なのだろう。

 そう判断して、彼の後をついていく。

 ほどなくして職員室へ到着。
 さらに、隣接している生徒指導室へ。

 はて?

 生徒指導室を利用する目的は、たいてい一つ。
 説教だ。
 とはいえ、呼び出しを受けるようなことをしていないはずなのだけど?

「そこに座りなさい」
「はい」

 促されて椅子に座ると、対面に教師が。

 改めて見ると、かなりの美形だ。
 メガネをしているせいか、それとも、スラリとした顔立ちのせいか知的に見える。

 細く鋭い印象で、やや目つきは厳しい。
 ただ、それはそれ。
 その厳しさが良い方向に作用していて、男性の顔を綺麗に整えていた。

 背は高く、がっしりとした体格だ。
 なにかスポーツをやっていることがわかる。

「いきなり呼び出してすまない。ただ、君の噂を色々と聞いてね。少し話をしておきたと思ったんだ」
「はい」
「まず最初に……」
「話を遮ってすみません。その前に、私から質問を一つ、よろしいでしょうか?」
「なんだね?」
「大変失礼なのですが、先生のことを知らず……お名前を教えていただけませんか?」
「ああ、そうか。失礼した」

 怒られるかな? と思いきや、なぜか謝罪されてしまった。

「私は、ユーリ・クロムウェルという。最近、この学院にやってきた教育実習生だ」
「なるほど、そうだったのですね」

 教育実習生というのなら、顔を知らなかったのも納得だ。
 しかし、教育実習生が私になんの用だろうか?

「話を再開しても?」
「はい、どうぞ」
「では……まず最初に確認しておきたいのだが、君に関して色々とよくない噂を聞く。これに関して、なにか釈明することは?」
「釈明しろと言われれば釈明をしましょう。事実無根ですし。ただ、私が口にしたことを、そのまま信じていただけるのですか?」
「それは難しいな」

 おい。

「一方の話で全てを判断することはできない。君以外の生徒からも話を聞く予定だ。その上で総合的に判断をしたい」

 ふむ。
 ぱっと感じた印象だけど、短絡的な思考をする人ではなさそうだ。

「どのような判断を?」
「もちろん、必要とあれば必要な教育をして、正しい道に導くという、ものだ」
「それは……本気なのですか?」
「当たり前だろう?」
「……」

 思わずぽかんとしてしまう。

 なんだ、この人は?
 こんなまっすぐすぎる教育論を語る人がいるなんて……

 いや、待てよ?
 こんな人がいたような気がする。

 確か、そう……

「……なるほど」
「どうした?」
「いえ、なんでもありません」

 ようやく私は理解した。

 この人は……最後のヒーロー、攻略対象だ。