お父さまとお母さまは優しい人だ。
 しかし、厳しい人でもある。

 なんかお願いをしたら、大抵のことは叶えてもらえるのだけど……
 仕事に関することに口を出すと、一蹴されることが多い。

 お前は、まだ学生の身。
 勉学に励み、余計なことを考える必要はない……と。

 そんな両親が下した決断に異を唱えるとなると、大変だ。
 真正面からぶつかれば、まず間違いなく撃沈してしまう。
 絡め手を使うしかない。

「グランフォールド君は……いえ、この際、エスト君と名前で呼んでも?」
「え? まあ……はい」

 せっかくなので、ちょっとでも距離を詰めてみることにした。

 彼も攻略対象だ。
 悩み相談を受けている中、どさくさ紛れで卑怯だとは思うのだけど……
 解決する代わりに交際しましょう、なんて言うわけではないのだから、これくらいはいいだろう。

「では……エスト君は、なぜ、私達の両親が魔法の研究をストップさせたのか、知っていますか?」
「いえ、知りません。色々と調べてみたのですが……」
「そうですか、そこは一緒ですね」

 エストに嫌われる理由を探る中、両親の……というよりも、お父さまの判断を知ったのだけど、そこに至る経緯は不明だ。

 なぜ、魔法の研究を止めたのか?
 その理由と思考がわからない。

「まずは理由を知りたいところですが……さて、どうしましょうか?」
「あなたがお願いすれば、話を聞けるのでは?」
「それは無理ですね。お父さまは家族には甘いですが、仕事については厳しいので。単純に質問をしても、知る必要はないと教えてくれないでしょう。情報を引き出すには、それ相応の対価を提示しないと」
「……」
「どうしたのですか、ぽかんとして」

 つちのこを発見した、というような感じで、エストはぽかんとしていた。

 ……この世界に、つちのこっているのだろうか?

「あ、いえ……意外とものを考えているのだな、と思って」
「それはつまり、私はなにも考えていないように見えた、と?」
「それは……その、すみません」
「いいえ、構いません」

 エストが私を嫌うのは、クラウゼン家だから、という理由だけではないだろう。
 ゼノスがあちらこちらに広めてくれた、悪役令嬢としての噂を信じてしまったからだと判断できる。

 まったく。
 あの邪神は、本当に余計なことばかりしてくれる。

「アリー姉さまは、とても聡明な方です! なにも考えていないとか、そんなことはありません!」

 フィーがかばってくれた。
 かわいい、最高。
 私の妹、マジ天使。

「私のことを気にかけてくれて、ありがとうございます、フィー」
「えへへ」

 にへら、と笑うフィー。
 ああもう、かわいすぎる。
 お持ち帰りしたい。

 あ、一緒に暮らしているんだった。

「……」

 私達のやり取りを見て、再び、エストがぽかんとした。

「どうしたのですか?」
「あ、いえ……仲が良いんですね」
「姉妹ですからね」
「そう、ですか……」

 エストは、どこか微妙な顔をしていた。

 フィーのおかげで、私に対する印象が少しだけ変わったように見える。
 うん。
 フィーに感謝だ。
 ハグをしてなでなでしたいところだけど、そこまですると照れて、離れてしまう。
 難しい年頃なのかもしれない。

「……ひとまず、ここで話し合いを重ねても、これ以上得られる情報はなさそうですね」

 なぜ? という疑問ばかりが積み上がり、答えにたどり着くことはない。

「同感です」
「なので、お父さまに話を聞きたいと思います。フィー、エスト君。同席してもらえますか?」
「それは問題ないですが……」
「アリー姉さま。お父さまは、お仕事のお話はしてくれないのでは……?」
「ですね。ただ、こうも言ったでしょう?」

 私は、いたずらっぽい笑みを浮かべて見せる。

「対価を提示すれば問題ありません」