悪役令嬢の私ですが、メインヒロインの妹を溺愛します

「……」
「……」
「……」

 私、フィー、エスト。
 三人が顔を合わせているものの、テーブルの上の紅茶に手を伸ばすことはない。

 穏やかにお茶会、なんていう雰囲気ではない。
 ピリピリとした空気が流れ、一触即発という言葉がふさわしい。

 そんな空気に戸惑い、フィーはおろおろとしていた。

 おろおろする妹、かわいい。
 カメラがあれば連写しているところだ。

「今日はどうされたのですか?」

 黙っていても仕方ない。
 私は口を開いて、エストの目的を確かめることにした。

「……本当は、あなたのところになんて来たくありませんでしたが」

 おっと。
 本音が漏れているよ?

 そう思っていたとしても、さすがに、相手が目の前にいる時に口にしたらいけない。
 頭は良いのかもしれないが、まだまだ子供というところか。

「あなたと……そして、シルフィーナさま以外に頼りになる人がいないんです」
「ふぇ?」

 自分も関係者なの?
 という感じで驚いて、フィーが目を丸くした。

 「ふぇ」というところが、ものすごくかわいい。
 ああ、なんでこの世界には録音機器がないのだろう?

 思考がトリップしそうになるものの、なんとか我に返る。

「それは、どういう意味ですか? なにか困っていることが?」
「……あります」
「その問題の解決に、私達姉妹の力が?」
「……はい」

 とても苦々しい顔をしつつ、エストが頷いた。

「ひとまず、話を聞かせてもらえませんか? そうでないと、どうしていいか、判断することもできません」
「……わかりました」

 そうして、エストは語る。

「僕の両親は宮廷学者です」
「宮廷!? す、すごいですね……」

 事情を知らないフィーは派手に驚いていたが、そういう反応は慣れっこなのか、エストはそのまま話を続ける。

「色々な研究をして、色々な発見をしてきました。そんな両親は国の宝だと、そう思っています」
「尊敬しているのですね」
「もちろんです」

 そう答えるエストは、年相応の表情をしていた。

「ただ……先日、今まで取り組んでいたとある研究が強制停止させられました。期限は未定です」
「どのような研究を?」
「僕も詳細は知らないのですが……人が持つ新たな力について、と聞いています。魔法……と」
「ふむ」

 魔法、ときたか。
 ここは異世界。
 魔法があるのも当然のことだけど、まだ普及しているわけではなくて、発見されたばかりなのか。
 その辺り、ゲームではメインの題材として取り扱われなかったため、よくわからないのだ。

「父と母は人の新たな可能性を切り開くべく、魔法の研究を進めていたのですが……ある日、ストップがかかりました。詳細な説明はないまま、魔法の研究を禁止されてしまいました」
「……それに関与しているのが、クラウゼン家というわけですね」
「知っていたのですか?」

 エストが驚きに目を大きくした。

 ええ、知っていましたとも。
 ただ、本人の口からそのことが語られるとは、さすがに予想はしていなかったのだけど。

「さきほども言いましたが、僕は魔法についての詳細を知りません。ただ、父と母からは、人の新しい可能性ということを聞いています。魔法に関する研究が進めば、きっと素晴らしいことになるでしょう」
「ふむ」
「それなのに、理不尽なことで研究が中断させられて……そんなこと、僕は許せません! そのようなことがあっていいはずがない!」
「……アリー姉さま。お父さまとお母さまが、本当にそのような命令を出したのでしょうか?」
「それはなんともいえませんが……無関係ということはないでしょうね」

 私も独自に調査をしたので、そこそこの情報を持っている。
 どこまで関与しているのか?
 そこは不明だけど、クラウゼン家が無関係ということはありえない。

「お願いがあります」
「なんでしょうか?」
「お二人から両親にかけあってもらえないでしょうか? 僕の父と母の研究を再開させてほしい、と」
「それは……」

 なるほど、そうきたか。

 エストがいかに優れていても、まだ学生。
 それに一般人のため、発言力はないに等しい。

 ならば、家族である私とフィーの力を頼りにした。
 理に叶った行動だけど、しかし、やはりまだ子供だ。
 私とフィーはクラウゼン家の一員ではあるが、家族だからといって、無条件に言うことを聞くほどお父さまとお母さまは甘くない。
 お願いをしたとしても、一蹴されてしまうだろう。

 でも……

「問題を解決できるという確約はできませんが……できる限り力になると、約束しましょう」
「ほ、本当ですか!?」
「アリー姉さま!」

 エストは驚いて、フィーは、それでこそというような顔に。

 無理難題なのだけど……
 それでも、エストの力になりたいと思った。

 そう思ったのだから、前に突き進むのみ……だ。