悪役令嬢の私ですが、メインヒロインの妹を溺愛します

 話をしてみたところ、エストは私個人が嫌いなわけではないようだ。
 クラウゼン家を敵視している様子。

 いったい、我が家はなにをやらかしたのか?
 早急に調べる必要があった。

 エストと仲良くなるため、という理由もあるのだけど……
 それ以上に問題になるのがフィーだ。

 フィーもクラウゼン家の一員。
 ありえないとは思うが、万が一くらいの可能性で、エストの敵視がフィーに向けられることもありえる。
 それを防ぐためにも、なにがどうなっているのか、突き止めないといけない。

 家に戻り、私個人の伝手を使い情報を集める。

 たかが小娘、と侮ることなかれ。
 確かに小娘ではあるが、しかし、その立場は公爵令嬢だ。
 色々な人脈を有しているし、裏の世界の情報も流れ込んでくる。

 それらをうまく活用してやれば……

「……なんていうこと」

 とにかく、エストとクラウゼン家に関する情報をありったけ集めて。
 それらを選別して。
 必要なものを取り出していった結果、以下のことがわかった。

 エストは平民ではあるものの、両親は宮廷学者だ。
 その頭脳をしっかりと引き継いでいて、誰も解けないような難問を、幼い頃で解いてしまったとか。

 聡明なエストだからこそ、飛び級を果たすことができた。
 歳が大きく離れているのに、私達と変わらずに活動することができた。

 ただ……

「まさか、クラウゼン家がエストの両親にちょっかいをかけていたなんて……」

 色々な情報を検証した結果、そんな結論に。

 詳細はまだ不明なのだけど……
 エストの両親が研究する内容に、クラウゼン家が口を挟む。
 そして、その研究をストップさせてしまう。

「そのようなことをされれば、クラウゼン家を敵視してもおかしくないですね」

 まったく。
 お父さまとお母さまは、なにをやらかしているのか?
 悪役令嬢みたいな真似をしたら、最終的に破滅してしまうというのに。

「……うん? 私の親だからこそ、そんな真似をしたのでしょうか?」

 悪役令嬢の両親らしく、嫌われるようなことを?

 でも、メインヒロインであるフィーの両親でもある。
 そう考えると、理不尽なことはしないはずなのだけど……

「……そこまで覚えていませんね」

 クラウゼン家が辿る未来は覚えていない。

 だって、仕方がないだろう。
 好きなゲームだとしても、全てのシーン、全ての情報を覚えていることなんて不可能だ。
 お気に入りのシーンに上書きされて、興味のない情報は消えてしまうもの。

「お父さまとお母さまがエストの両親に謝罪をして、ストップさせた研究を再開させれば……いえ、絶対に無理でしょうね」

 お父さまもお母さまも我の強い人だ。
 前言撤回をさせるのは並大抵の苦労じゃない。

 やれないことはないだろうが、果てしなく時間がかかってしまう。

「さて、どうしましょうか?」

 エストに嫌われている原因はわかったものの、対処法がさっぱりわからない。

 クラウゼン家の行いによって、エストは私も嫌うようになった。
 しかし、お父さまとお母さまから謝罪を引き出すことは不可能……もしくは、相当に時間がかかる。

 ……詰み?

「こうなってしまうと、エストのことは諦めるしかない……?」

 正体不明のヒーローを含めて、他に四人もいる。
 彼らの攻略を中心に考えて、エストのことは気にしなければ……

「なんて、そういうわけにはいきませんね」

 嫌われているから避ける。
 それは当たり前の考えかもしれないけど……

 私の場合、少し違う。

 せっかくなら仲良くなりたい。
 友達100人とまではいかないけど、仲の良い人は多い方が良い。
 その方が、きっと楽しい人生になる。

 だから、エストとも仲良くしたい。
 一緒に笑える友達になりたい。

 理由?

 ただの直感だ。
 彼と友達になれば、きっと楽しいことになる。
 今以上に笑顔があふれるようになる。

 それだけだ。
 彼がヒーローとか、なんかもう、そういうのは関係ない。
 私は、やりたいようにやるだけだ。

「……はい?」

 ふと、思考を遮るように扉をノックする音が響いた。
 返事をすると、フィーがひょこっと顔を出す。

「アリー姉さま、お邪魔でしたか?」
「いいえ、そのようなことはありませんよ」

 かわいい妹の用事は全てにおいて優先される。
 邪魔なんてことは決してない。

「どうしたのですか?」
「アリー姉さまにお客様なんですが……」
「お客様?」

 誰だろう?
 ヒーロー達からは蛇蝎のごとく嫌われているし、その他、自宅にやってくるほど仲の良い友達はいない。

 好感度を妹に極振りした結果だ。

「失礼します」

 聞き覚えのある声と共に姿を見せたのは……

「エスト・グランフォールド……?」