最後の一人のヒーローの所在は不明だけど……
 ひとまず、エスト・グランフォールドを見つけることができた。
 二つ三つ言葉を交わしただけだけど、接点もできた。

 エストの攻略をするかどうか、それは置いておいて……
 まずは彼と友達になりたいと思う。

 ……まあ、打算尽くしの友達なのだけど。
 そこはゼノスが悪いということで、見逃してほしい。

 ゲームの知識によると、エストは努力家で勤勉だ。
 常に上に行くことを意識していて、努力と勉強を欠かさない。

 その情報を思い出した私は、図書室を訪ねてみた。

「……いた」

 図書室の一角で本を読むエストを発見した。
 普段はメガネをかけているらしく、今はメガネ姿だ。

 幼い少年だけど、知性を感じさせる。
 そのギャップがたまらない、という人がたくさんいた……かな?

 さて、どう接したものか?

 なぜかわからないけれど、私は彼に嫌われている。
 真正面から話しかけて相手をしてもらえるだろうか?

「……してもらえませんね」

 先日のように、睨まれて、そして逃げられてしまうのがオチだろう。
 それを避けるためには、短時間でも、一緒にいなければいけない理由を作る必要がある。

 それは……

「よし」

 少し考えた後、私はエストのところへ向かう。

 タイミングよくエストが席を立った。
 たくさんの本を持ち、本棚へ向かう。

 ごめんなさい。

 心の中で謝罪をしつつ、私は、わざと彼にぶつかる。

「あっ!?」

 本がバラバラと床に落ちた。

「申しわけありません! よそ見をしていて、つい……」
「いいえ、別に気にして……いま、せん……」

 相手が私ということに気づいて、エストの表情がみるみるうちに強張っていく。
 最終的に、先日と同じく、思い切り睨みつけられた。

「どうして、あなたがここに?」
「あら、おかしなことを仰るのですね。ここは全生徒に開放されている場所なのですよ? 私がいても、特段おかしな点はないと思いますが」
「それは……」
「それよりも、失礼いたしました」

 私は床に落ちた本を拾う。
 こうしている間は話をすることができる。

「あなたの手伝いなんていりません」
「いいえ、そういうわけにはいきません。私のせいでこうなってしまったのですから」
「それでも、必要ありません」
「人にぶつかり、持っているものを落とさせておきながら、なにもせずに立ち去る……私をそのような女にさせたいのですか?」
「それは……」

 私に悪評を立たせるつもりか?
 ちょっと卑怯な言い方だけど、効果は抜群だった。

 エストは苦い顔をしつつ、それ以上、文句は言わない。

 ごめんなさい、あなたの純粋な心を利用して。
 心の中で謝罪をしつつ、話を進める。

「たくさんの本を読んでいるのですね」
「……」
「学術書に魔法書。それと……これは論文ですね」
「……」
「これだけの本を読むなんて、読書家なのですか?」
「……」

 色々と話しかけてみるものの、反応はない。
 エストはあからさまな無視をして、本を拾い続ける。

 ただ、私は気にしない。
 無視されていることなんて気づいていない、というフリをして、そのまま話しかけ続ける。

 そうすると、やがて根負けした様子でエストはため息をこぼした。

「……別に、読書家というわけではありません」
「そうなのですか?」
「僕が本を読むのは、それが自分のためになると信じているからです」
「知識は力……というものでしょうか?」
「ええ、そうです」

 エストは拾い上げた本をじっと見て、ぽつりと言う。

「僕は……力が欲しいんです」

 なにを思い、そのセリフを口にしたのか?
 なぜ、力を欲するのか?

 その理由を知りたい。
 彼を攻略するとか、そういうことは、なんかもうどうでもよくなり……
 ただ単純に、エスト・グランフォールドの人となりを知りたいと、そう思った。

 そう思わせるような、とてもまっすぐな顔をしていたのだ。

「あなたは……」
「ありがとうございました」

 本を全て拾い終えたエストは、すぐに私と離れたいというように、一歩、後ろへ下がる。

「あの……」

 そんな態度を見せられても、私は諦めることなく声をかけようとするが……

「では、僕はこれで」

 これ以上話すつもりはないと、そう言うかのように、ピシャリと言う。

 まいった。
 これは、思っていた以上の強敵だ。

 でも、まあ……諦めるつもりはないのだけど。

「また、話ができますか?」
「そのような機会は限りなく少ないかと思いますね」
「それは、なぜ?」
「あなたがクラウゼン家の令嬢だからです」

 憎しみに近い感情を宿して言い放ち、エストは立ち去る。

 今のは、つまり……

「実家がなにかやらかしていた、ということですね……はぁ」