「いらっしゃい」
女性はにっこりと笑い、優雅に一礼をした。
気品のある仕草で、貴族に属する者であることは間違いないだろう。
「もう下がっていいわ」
「しかし……」
「聞こえなかったの?」
「……なにかあればすぐにお呼びください」
私を捕まえたと思われる男は、警戒感を残しつつも、女性の命令に従い部屋を出た。
そこで気付く。
この部屋……やたらと豪華だ。
広いだけではなくて、たくさんの調度品、美術品があふれている。
値が張りそうな品ばかりなのだけど、調和というものがない。
とりあえず、値段の高いものを順に買いあさり、並べてみせた。
そんな感じの趣味の悪い部屋だ。
「趣味が悪いでしょう?」
私の心を読んだかのように、女性が笑いながら言う。
「お父さま、お母さま、お兄さま、お姉さま……この家の人間が買ったものよ。もちろん、美術眼なんていうものはなし。高い=素晴らしい品、と信じて疑わない、愚か者の集まりね。だから、こんなにもつまらない部屋になってしまう」
「はぁ……」
「話が逸れたわね。たまには愚痴をこぼしたくて、つい」
気さくな感じで話しかけてくれるのだけど……
しかし、私は、この女性に気を許すことができない。
むしろ、最大限に警戒をしていた。
なぜかわからない。
でも、この女性は敵だと、本能が訴えてくるのだ。
「まずは、自己紹介をしましょうか」
女性はスカートの裾を軽くつまみ、優雅に一礼する。
「私の名前は、ゼノス・ラウンドフォール。ラウンドフォール伯爵家の次女よ」
「っ……!? その名前は……」
「ふふ」
私が驚くのを見て、ゼノスは楽しそうに笑う。
「その反応、やっぱり、アリエルと顔を合わせているのね? そこで、私について聞いた……そうなのでしょう?」
「……ええ、その通りです」
全て見抜かれているようだ。
ウソをついても仕方ない……というか、話を進めづらいだけ。
そう判断した私は、素直に彼女の言葉を認めた。
「あなたは、アリエルが言うゼノスなのですか?」
「ええ、そうよ。アリエルと対を成す、もう一人の神。って、自分で神を名乗るとか、傍から見ると痛いわね。ああ、そうそう」
ゼノスがパチンと指を鳴らした。
すると、私の手足を拘束する縄が勝手にほどける。
さらに、ティーカップとポットがふわふわと宙を浮いてやってくる。
透明人間がいるかのように、勝手に紅茶が淹れられた。
「長くなりそうだもの。座って話をしましょう?」
「……これは、お招きに預かった、ということなのですか?」
「そうよ。少し乱暴な手段になってしまったのは謝罪するわ。でも、あなたがいけないのよ? 私が仕掛けた罠を、これ以上ないほど乱暴な方法で解決しようとするのだから」
私が考えていることも、全部、お見通しというわけか。
なるほど。
神というだけあって、頭の回転も早いようだ。
とにかく、こちらも情報が欲しい。
素直にゼノスの誘いを受けて、対面に座る。
「いただきます」
紅茶を飲む。
「あら? 素直に飲むのね。こういう場合、毒を疑わないかしら」
「ここで毒殺するようなメリットなんて、あなたにはないでしょう?」
「賢いのね。気に入ったわ」
「どうも」
試されていたような気はするが……
ひとまず、ゼノスの機嫌を損ねずに済んだようだ。
「それで、なぜ私と話を?」
「あなたに興味があるの」
「私に?」
「そう。転生者だから、ちょっと気になって意地悪をしてみたら……あなた、その逆境を利用してヒーロー達と仲良くなったでしょう? 敵対するはずのメインヒロインの心を掴んだでしょう?」
「……」
「そんなこと、普通、できるものじゃない。うん、とても素敵ね」
本気で言っているようだけど……
「私に興味があるのなら、なぜ、前回、私の命を奪ったのですか?」
「あれは世界の強制力が強いせいでもあるのだけど……基本、私は意地悪なのよ。不幸に落ちるはずの人間が幸せになる。なら、そこで今度こそ不幸に落としたらどうなるか? それを見てみたかったの」
「悪趣味ですね」
「ええ、そうよ。だって、私はそういう神だもの。アリエルの対極にいるのだから」
まったく反省していない。
ホント、アリエルが言っていたように厄介な神だ。
「でも……あなたは、再びこの世界に戻ってきた。そして、ヒーロー達には邪険にされているものの、妹の心は以前以上に掴んでいる。おもしろい。うん、とてもおもしろいわ」
ゼノスの目はキラキラと輝いていた。
「それならば、私も、自分の役割をまっとうしないといけないわ。嫌がらせをして、本来の悪役令嬢が辿るように、バッドエンドを迎えさせなければならない。そう思って……」
「私の悪評を流した?」
「正解」
たぶん、私の顔はひきつっていたと思う。
アリエルが言っていたけれど、なんて性格の悪い。
こんな女性……というか神さまに目をつけられてしまうなんて、とても厄介だ。
こんなことなら、アリエルの善意に乗り、元の世界に転生していた方が……
なんてことは欠片も思わない。
確かに面倒だ。
厄介だ。
でも、ここで引き下がるわけにはいかない。
とてもシンプルに言うと、ゼノスは私にケンカを売ってきた。
突然、頬をひっぱたいてきたようなもの。
それなのに逃げ出すなんてありえない。
やっつけることができるか、それはわからないけど……
相手が神さまだとしても、いつでもどこでも思い通りにいかないということを教えてやろう。
私は、やられっぱなしの女ではないのだ。
「ふふ、そう睨まないで」
私の敵意を感じ取っているだろうが、ゼノスは余裕の笑みを崩さない。
「今日は、あなたに良い話を持ってきたの」
女性はにっこりと笑い、優雅に一礼をした。
気品のある仕草で、貴族に属する者であることは間違いないだろう。
「もう下がっていいわ」
「しかし……」
「聞こえなかったの?」
「……なにかあればすぐにお呼びください」
私を捕まえたと思われる男は、警戒感を残しつつも、女性の命令に従い部屋を出た。
そこで気付く。
この部屋……やたらと豪華だ。
広いだけではなくて、たくさんの調度品、美術品があふれている。
値が張りそうな品ばかりなのだけど、調和というものがない。
とりあえず、値段の高いものを順に買いあさり、並べてみせた。
そんな感じの趣味の悪い部屋だ。
「趣味が悪いでしょう?」
私の心を読んだかのように、女性が笑いながら言う。
「お父さま、お母さま、お兄さま、お姉さま……この家の人間が買ったものよ。もちろん、美術眼なんていうものはなし。高い=素晴らしい品、と信じて疑わない、愚か者の集まりね。だから、こんなにもつまらない部屋になってしまう」
「はぁ……」
「話が逸れたわね。たまには愚痴をこぼしたくて、つい」
気さくな感じで話しかけてくれるのだけど……
しかし、私は、この女性に気を許すことができない。
むしろ、最大限に警戒をしていた。
なぜかわからない。
でも、この女性は敵だと、本能が訴えてくるのだ。
「まずは、自己紹介をしましょうか」
女性はスカートの裾を軽くつまみ、優雅に一礼する。
「私の名前は、ゼノス・ラウンドフォール。ラウンドフォール伯爵家の次女よ」
「っ……!? その名前は……」
「ふふ」
私が驚くのを見て、ゼノスは楽しそうに笑う。
「その反応、やっぱり、アリエルと顔を合わせているのね? そこで、私について聞いた……そうなのでしょう?」
「……ええ、その通りです」
全て見抜かれているようだ。
ウソをついても仕方ない……というか、話を進めづらいだけ。
そう判断した私は、素直に彼女の言葉を認めた。
「あなたは、アリエルが言うゼノスなのですか?」
「ええ、そうよ。アリエルと対を成す、もう一人の神。って、自分で神を名乗るとか、傍から見ると痛いわね。ああ、そうそう」
ゼノスがパチンと指を鳴らした。
すると、私の手足を拘束する縄が勝手にほどける。
さらに、ティーカップとポットがふわふわと宙を浮いてやってくる。
透明人間がいるかのように、勝手に紅茶が淹れられた。
「長くなりそうだもの。座って話をしましょう?」
「……これは、お招きに預かった、ということなのですか?」
「そうよ。少し乱暴な手段になってしまったのは謝罪するわ。でも、あなたがいけないのよ? 私が仕掛けた罠を、これ以上ないほど乱暴な方法で解決しようとするのだから」
私が考えていることも、全部、お見通しというわけか。
なるほど。
神というだけあって、頭の回転も早いようだ。
とにかく、こちらも情報が欲しい。
素直にゼノスの誘いを受けて、対面に座る。
「いただきます」
紅茶を飲む。
「あら? 素直に飲むのね。こういう場合、毒を疑わないかしら」
「ここで毒殺するようなメリットなんて、あなたにはないでしょう?」
「賢いのね。気に入ったわ」
「どうも」
試されていたような気はするが……
ひとまず、ゼノスの機嫌を損ねずに済んだようだ。
「それで、なぜ私と話を?」
「あなたに興味があるの」
「私に?」
「そう。転生者だから、ちょっと気になって意地悪をしてみたら……あなた、その逆境を利用してヒーロー達と仲良くなったでしょう? 敵対するはずのメインヒロインの心を掴んだでしょう?」
「……」
「そんなこと、普通、できるものじゃない。うん、とても素敵ね」
本気で言っているようだけど……
「私に興味があるのなら、なぜ、前回、私の命を奪ったのですか?」
「あれは世界の強制力が強いせいでもあるのだけど……基本、私は意地悪なのよ。不幸に落ちるはずの人間が幸せになる。なら、そこで今度こそ不幸に落としたらどうなるか? それを見てみたかったの」
「悪趣味ですね」
「ええ、そうよ。だって、私はそういう神だもの。アリエルの対極にいるのだから」
まったく反省していない。
ホント、アリエルが言っていたように厄介な神だ。
「でも……あなたは、再びこの世界に戻ってきた。そして、ヒーロー達には邪険にされているものの、妹の心は以前以上に掴んでいる。おもしろい。うん、とてもおもしろいわ」
ゼノスの目はキラキラと輝いていた。
「それならば、私も、自分の役割をまっとうしないといけないわ。嫌がらせをして、本来の悪役令嬢が辿るように、バッドエンドを迎えさせなければならない。そう思って……」
「私の悪評を流した?」
「正解」
たぶん、私の顔はひきつっていたと思う。
アリエルが言っていたけれど、なんて性格の悪い。
こんな女性……というか神さまに目をつけられてしまうなんて、とても厄介だ。
こんなことなら、アリエルの善意に乗り、元の世界に転生していた方が……
なんてことは欠片も思わない。
確かに面倒だ。
厄介だ。
でも、ここで引き下がるわけにはいかない。
とてもシンプルに言うと、ゼノスは私にケンカを売ってきた。
突然、頬をひっぱたいてきたようなもの。
それなのに逃げ出すなんてありえない。
やっつけることができるか、それはわからないけど……
相手が神さまだとしても、いつでもどこでも思い通りにいかないということを教えてやろう。
私は、やられっぱなしの女ではないのだ。
「ふふ、そう睨まないで」
私の敵意を感じ取っているだろうが、ゼノスは余裕の笑みを崩さない。
「今日は、あなたに良い話を持ってきたの」