「おはようございます」

 私はにっこりと笑い、挨拶をした。
 自分で言うのもなんだけど、極上のスマイルだ。
 値段をつけてもいい。

 そんな笑みを向けている相手は、

「……なんだよ」

 アレックスだ。
 私の悪い噂は彼のところに着実に伝わっているらしく、敵対心たっぷりだ。

 ここは学院の入り口。
 人目があるため無視はしないものの、露骨にうんざりとした表情を浮かべていた。

「俺になにか用事か?」
「いえ、特に用はありません。姿を拝見したので、ご挨拶を」
「そんなもの、いらないんだが」
「あら。同じ学院に通う者、挨拶をするのは当然のことだと思いますが」
「……勝手にしろ」

 俺は挨拶なんてしないからな。
 そう態度で語るように、アレックスは背中を見せて立ち去る。

 うん、最初はこんなところだろう。

 彼の態度を気にすることなく、私は次の目的地へ。



――――――――――



「おはようございます」
「……」

 ジークが通りかかりそうな場所で待ち伏せして、挨拶をするのだけど、見事に無視された。

「おはようございます」
「……」

 二度、挨拶をするも、やはり無視されてしまう。
 気づいていないということはないだろう。
 だとしたら、彼はどれだけ鈍感なのか。

「おはようございます」
「……はぁ」

 三度、挨拶をすると、ようやくジークが反応してくれた。
 挨拶は返してくれないものの、こちらを見てくれる。

「なにか用事が?」
「いいえ。ただ、レストハイムさまを見かけたので、挨拶を」
「白々しい……どう見ても待ち伏せをしていたじゃないか」
「それは、なぜか私のことを嫌っているみたいなので、関係修復を図りたいと思いまして」
「必要性を感じないな。君のような悪女と仲良くなりたいなどと、思ったことは一度もない」
「そうおっしゃらず」
「しつこい」
「わかりました。では、今日はここまでで。あまりしつこくして嫌われてしまったら意味がないので」
「今日は?」
「では……レストハイムさま、また明日」

 一礼して、その場を立ち去る。



――――――――――



 私の未来がかかっているのだけど……
 それを除いたとしても、アレックスやジークとは、また仲良くなりたい。
 前回と同じように友達になりたい。

 だから、ここで退くという選択はない。
 謎の脅迫に負けるわけにはいかない。

 なので、脅迫を無視して、ひたすらに構うことにした。

 私が勝手をしているだけなので、フィーに害が及ぶことはない。
 それに、私が目立つことで、脅迫犯の意識をこちらに集中させることができる。

 あと、アレックスもジークもバカではない。
 というか、とても賢い。
 きちんと話をすれば、流言などに惑わされることなく、心をひらいてくれるはずだ。

 つまり……

「今は、脅迫文なんて無視して、ひたすらに二人に接近する。それがベストですね」

 そんな答えを導き出す私。
 うん、完璧。

 ……なんて思っていた時期がありました。

「ふむ」

 脅迫文が届いて……
 構うことなく、アレックスとジークに接近して……
 早一週間が経とうとしていた。

 アレックスとジークの問題は、わりと良い方向に進んでいた。
 徹底的に構っていたら、根負けしたのか、少しずつではあるが話をしてくれるように。

 そして、私に関する悪い噂に疑問を持ち始めていた。
 良い傾向だ。

 一方で、悪いことも起きていた。

「わぁ……すごい手紙ですね」
「……そうですね」

 朝。
 登校すると、私の下駄箱いっぱいに手紙が詰め込まれていた。

 開封しなくてもわかる。
 全部、脅迫文だ。
 たぶん、刃なども仕込まれているだろう。

 私が無関心を装っているせいか、相手もどんどん過激になっているみたいだ。
 私にヘイトが集中している分は問題ないのだけど……
 このままだと、相手はなりふり構わず、私の周囲に手を出す可能性がある。

「さて、どうしたものでしょうか?」