「これは……」

 床に落ちた手紙を拾う。
 宛名、差出人は書いていないが、私のもので間違いないだろう。

「アリー姉さま、もしかしてそれは恋文ですか!?」

 フィーの目がキラキラと輝いていた。
 そういう話が好きな年頃なのだろう。

 ただ、私はフィーほど無邪気に喜ぶことができない。
 というのも、この手紙からはよくないものを感じる。

 オカルトじみた話になるかもしれないが……
 でも、嫌な予感がするのだ。

「……」

 見なかったことにしたいけど、そういうわけにはいかないか。

 意を決して手紙を開ける。

『アレックス・ランベルト。ジーク・レストハイム。この二人に近づくな。警告を無視するのならば、不幸が訪れるだろう』

 手紙の内容なそんなものだった。

 わりとありきたりな脅迫文だ。
 手書きなところを見ると、深く考えることなく実行したのだろう。

 筆跡鑑定が存在したら、どうするつもりだったのだろうか?
 すぐに犯人がバレてしまうのだけど。

「でも……」

 謎だ。
 どうして、こんな脅迫文をよこされたのだろう?

 前回はともかく、今回は、アレックスとジークと仲良くなれていない。
 むしろ、関係は悪化中。
 好感度はマイナスだ。

 普通に考えて、二人に接近する機会はない。
 それなのに、こんな脅迫文が届くなんて……うん、意味がわからない。

「アリー姉さま、どのような手紙だったんですか?」
「……どうも宛先を間違えているみたいですね」
「そうですか……恋文と思い、わくわくしたのに」
「恋文だとしたら、私はその殿方を気に入り、お付き合いするかもしれませんね。そうなると、こうしてフィーと一緒に帰ることはできなくなりますね」
「えっ……」

 ちょっとした冗談で言ってみたのだけど、フィーは、絶望的な表情になる。
 今にも泣き出してしまいそうだ。

 予想外の反応だけど……
 それだけ私と一緒にいたいと思ってくれている?

「ふふ、冗談ですよ。そのようなことはありません」
「も、もう……アリー姉さま、意地悪です」
「すみません。お詫びに、なんでも一つ、言うことを聞きますよ」
「本当ですか……?」
「はい」
「……なら、手を繋いで帰りたいです」
「喜んで」

 フィーのわがままというよりは、私に対するご褒美だ。

 にこにこ笑顔、心はるんるん。
 フィーと一緒に楽しく帰宅した。



――――――――――



「……という感じで、なにもかも忘れてしまえばよかったのですが、そういうわけにもいきませんね」

 夜。
 自室で、私に関する噂と手紙について考える。

「噂を流している者と手紙の差出人……普通に考えて、犯人は同一人物ですよね?」

 その犯人はわからないが、私に悪意を持つ者がいる。
 そして、私がアレックスとジークに近づくことを好まない。

「ふむ」

 犯人は……アレックスとジークに好意を持つ者だろうか?
 私を二人に近づく悪い虫と判断して、過激な方法で排除しようとした。

 そう考えると辻褄が合う。

 現状、二人と大した接点を持たない私が、なぜ悪い虫認定されたのか?
 いきなり過激な方法を選択した理由は?

 などなど、いくつか謎は残るものの、おおよその推論を立てることはできた。

 ならば、これからどうするか?
 じっくりと考える。

 今のところ、ターゲットは私一人。
 それなら問題はない。
 妙な嫉妬を抱く女子生徒の一人や二人、なんとかしてみせよう。

 しかし、矛先が私以外に向いたら?
 フィーも狙われるようになったら?

 それだけは絶対に避けないといけない。

 フィーが狙われることなく、しっかりとターゲットを私に固定。
 そのまま事件を解決するための方法は……

「……これでいきましょう」

 とある策を思いついたのだった。