アレックスと良い関係を構築するのは、なかなか難しそうだ。
 短時間で一気に……というのは、ほぼほぼ不可能。
 時間をかけて、ゆっくりと距離を縮めるしかない。

 そう判断した私は、ひとまず、アレックスの件は後回しにすることにした。

 挨拶などをして。
 機会があれば小話をして。

 距離を詰める努力はするものの、無理はしない。
 様子見だ。

 今は、もう一人のヒーロー……ジークとコンタクトをとりたいと思う。
 本当は、ヒーローはもう一人いるのだけど……
 あいにく、ネコの転校イベントはまだ発生していない。

「そうなると、必然的にジークさまの様子を確かめておくことが大事になるのですが……ふぅ、あまり気乗りしませんね」

 ジークは気難しい性格をしていて、基本的に他人に心を許していない。

 前回は色々な偶然が重なり、いつの間にか友達になれていたのだけど……
 その記憶を引き継いでいるのは私だけ。
 なので今回は、アレックスと同じように他人からスタートしなければいけない。

「ジークさまは、見た目とは正反対に、とてもいい性格をされていますからね……どうやって距離を縮めたものか。下手をしたら、縮めるどころか遠ざかることも」

 前回、友達になれたのは奇跡のようなものだ。

 その原因をしっかりと理解していたのなら、なんとかなるのかもしれないのだけど……
 さっぱりわからない。

 フィーの代わりに事件に巻き込まれたからだろうか?
 それとも、他に思い至らない要因が?

 ダメ。
 考えても答えが出てこない。

「とりあえず、あたって砕けてみましょう」

 やるだけのことはやろう。
 そう決めて、ジークのクラスへ向かう。

 今は昼休み。
 大体の学生は、食堂でごはんを食べているか、教室でお弁当を食べている。
 ただ、ジークのクラスは別だった。
 多くの女子生徒が集まり、きゃあきゃあと黄色い声を出している。

 なんだろう?
 不思議に思い、彼女達の視線を追いかけてみると……

「……」

 一人、教室でお弁当を食べているジークの姿が。

 窓際に座る彼は、温かい陽光を浴びていた。
 その光が髪に反射して、キラキラと輝いているかのようだ。

 それに加えて、同性でさえ見惚れるような美貌。
 すらりと鍛え上げられた体。

 そこにいるだけで絵になり……
 なるほど。
 彼女達はジークのファンで、こうして、絵になるところを見て騒いでいるのだろう。

 ただ。少し失礼ではないだろうか?
 動物園のパンダではないのだ。
 遠巻きに眺められて、きゃあきゃあと騒がれていたら気に触るだろう。

 事実、ジークはどんどん仏頂面になっていく。
 不機嫌全開だ。
 女子生徒達はそのことに気づいていない。

 まったく……仕方ないですね。
 ここは、私がなんとかするしかないようだ。

「あなたたち、今は……」
「いい加減にしてくれないか?」

 女子生徒達を諌めようとしたところで、先にジークが動いた。
 席を立ち、私を睨みつけて……

 って、あれ?
 危険を察知したのか、いつの間にか女子生徒達は消えていた。
 残されたのは私だけ。

「今は食事中で、そんなにジロジロと見られていたら気が散って仕方がない」
「え? え?」

 ジークが私を睨みつける。
 さきほどまでの騒ぎ、全部、私のせいだと思われている?

「い、いえ、私は……」
「今日に限ったことじゃない。毎日毎日、こんな馬鹿騒ぎをして……君は恥ずかしいと思わないのか? 自分の行動を振り返ることはないのか?」
「ですから、今のは私ではなくて……」
「言い訳をするか。やれやれ……本当にくだらない」

 今度は失望の目を向けられた。

 あれ?
 なぜか、全て私の責任になっていて……
 そのせいで、初対面の印象が最悪に?

「君は……そうか、公爵令嬢のアリーシャ・クラウゼンだな? 社交界などで、何度か顔は見たことがある。両親は素晴らしい人だというのに、その娘である君は、この程度の女性だとは……噂通りにどうしようもない人のようだな」

 むかっ。

 私は、怒りがこみ上げてくるのを自覚した。