ツカツカと足音を鳴らしつつ、フィーと女子生徒達のところへ向かう。
今の私は、よほど恐ろしい顔をしているらしく、女子生徒達は恐怖に震えて、それぞれに体を寄せ合っていた。
ちなみに、フィーもぷるぷると震えていた。
私に怯えているわけじゃないわよね?
いじめられていたから、それで震えているのよね?
お姉ちゃん、信じているからね。
「あ、アリーシャさま……」
「どうして、この教室に……」
どうやら、公爵令嬢である私は、それなりに有名人らしい。
女子生徒達はさきほどまでの勢いがなくなり、怯えた様子で小さな声で言う。
「な、なにか用でしょうか?」
「ええ、もちろん。少し見ていたのですが……あなた達は、私の妹にずいぶんとひどい言葉をぶつけていたようで。なにを思い、なにを考えて、そのような行動をしていたのか。私に教えていただけませんか?」
「え……あ、その……」
「これは、なんていうか……」
「わたくし達は、なにも……えっと……」
鋭く睨みつけると、逃げるように、女子生徒達はすぐに私から目を逸らした。
まったく。
私は、内心で深いため息をこぼした。
彼女達の浅はかすぎる行動に、怒りを通し越して、哀れみさえ覚えてくる。
公爵令嬢である私に睨まれたら終わり。
逆らうことはできず、縮こまることしかできない、というのはわかるのだけど……
今や、フィーも立派な公爵令嬢なのだ。
そんな彼女をいじめていることが公になれば、どうなるか?
そのことがわからないほどのおバカさんなんて……ホント、頭が痛くなる。
「……あなた達」
「「「は、はいっ!?」」」
「妹はいますか? それとも、姉は? 弟は? 兄は?」
女子生徒は一度顔を見合わせてから、こちらの問いかけに答える。
「私は……妹が」
「兄と姉が、います」
「歳は離れていますが、産まれたばかりの妹が……」
「ならば恥を知りなさいっ!!!」
「「「っ!?」」」
女子生徒達がビクリと震えた。
それに構うことなく、私は鋭い声で、怒りに満ちた声で言う。
「大事に思う家族がいるのならば、わかるでしょう? 家族を傷つけられたのならば、どんな気持ちになるか。どれだけの怒りと悲しみを覚えるか」
「あ……」
「私とフィーは、つい先日、家族になったばかりです。しかし、時間は関係ありません。フィーは私の大事な妹です。その妹を傷つけようというのならば……容赦はしません」
サァっと、女子生徒達の顔色が青くなる。
ようやく、自分達がしでかした愚かさを理解した様子だ。
「「「も、申しわけありませんっ!」」」
顔を青くして、震えて……
そのまま大きな声で謝罪をして、必死な様子で頭を下げてきた。
その場しのぎではなくて、本心からの謝罪に見えた。
こちらの言いたいことを理解してくれたのだろう。
徹底的に叩く……ということは、やめておこう。
フィーを傷つけたことは許せないのだけど、でも、むやみに刃を振り下ろすことは好きじゃない。
反省してくれたのならば、それでよしとしよう。
かわいいフィーも、そこまでは望んでいないと思うし。
「わかりました。あなた達の謝罪を受け入れます」
「「「えっ?」」」
簡単に謝罪が受け入れられるとは思っていなかったらしく、女子生徒達がキョトンとした。
公爵令嬢にケンカを売るような真似をしたのだ。
最悪、家の取り潰し……そこまでの未来を想像していたに違いない。
ただ、そんなことをするつもりはない。
そこまでしたら、家の権力を振りかざしているだけであり、悪役令嬢そのものだ。
バッドエンドを避けたいというのに、悪役令嬢らしくしてどうするというのか。
あとは、なによりもフィーのためだ。
どうしようもないほどに断罪をして追いつめたら、逆上するかもしれない。
その場合、私だけではなくてフィーに危険が及ぶかもしれない。
それは絶対にダメ。
向こうも致命的と言えるほどにひどいことはしていないので……
この辺りで、互いに矛を収めよう、というわけだ。
「あなた達が家族を大事にするように、私も妹を大事に想っています。なので、さきほどのような真似はやめてください。私の言うことは、わかりますね?」
「「「はい……申しわけありませんでした」」」
ちゃんと反省しているらしく、女子生徒達は肩を落としていた。
それならば、これ以上言うことはない。
「今回はこのようなことになりましたが……ですが、次は何事もなく、笑顔で楽しい話ができるようになりたいですね」
「あ、あの……私達のことを許してくださるのですか?」
「はい」
「どうして……?」
「だって、嫌いな人を作るよりも、友達を作った方がいいじゃないですか」
にっこりと言うと、女子生徒達は目を丸くした。
次いで、なぜか見惚れたような感じで、頬を染める。
「「「……お姉さま……」」」
「え?」
「なんで慈悲深い……」
「まるで女神のようですわ……」
「私、お姉さまのファンになりました……あ、お姉さまと呼んでもよろしいですか?」
「え? あ、はあ……まあ、構いませんが」
「「「きゃーっ」」」
困りつつも笑顔を向けると、女子生徒達は黄色い声をあげた。
ついでに、周囲の生徒達も歓声をあげた。
え? なに?
これは、どういうこと?
私、なにもしていないよね?
それなのに、どうしてこんな反応に……うーん?
まあ……いいか。
なにはともあれ、フィーがいじめられるという事態は避けられた。
今後の心配もいらないと思う。
「それじゃあ、フィー。また後で」
「あ……アリーシャ姉さま!」
「はい?」
「あの、その……あ、ありがとうございます!」
「お礼なんて言わないで。妹が困っていたら、それを助けるのは姉の役目なのですから。私はただ、当たり前のことをしただけですよ」
なにか困っていることがあれば、いつでも頼るように。
そんなことを言うように、軽くフィーの頬を撫でて、教室を後にする。
「……」
廊下に出ると、なんともいえない顔をしたアレックスが。
「どうしたのですか?」
「……ありがとな」
「え?」
「俺じゃあ、なにもできなかった。割って入ることはできても、貴族を相手に戦うことはできなかった。だから……助かった」
思わず目を丸くしてしまう。
まさか、アレックスにお礼を言われるなんて……
しかも、こんなにも素直。
「な、なんだよ?」
「もしかして……あなた、アレックスの偽物ですか?」
「なんでだよ!」
当然だけど、怒られる私だった。
ああもう。
なんでこう、余計なことを言ってしまうのだろうか……
今の私は、よほど恐ろしい顔をしているらしく、女子生徒達は恐怖に震えて、それぞれに体を寄せ合っていた。
ちなみに、フィーもぷるぷると震えていた。
私に怯えているわけじゃないわよね?
いじめられていたから、それで震えているのよね?
お姉ちゃん、信じているからね。
「あ、アリーシャさま……」
「どうして、この教室に……」
どうやら、公爵令嬢である私は、それなりに有名人らしい。
女子生徒達はさきほどまでの勢いがなくなり、怯えた様子で小さな声で言う。
「な、なにか用でしょうか?」
「ええ、もちろん。少し見ていたのですが……あなた達は、私の妹にずいぶんとひどい言葉をぶつけていたようで。なにを思い、なにを考えて、そのような行動をしていたのか。私に教えていただけませんか?」
「え……あ、その……」
「これは、なんていうか……」
「わたくし達は、なにも……えっと……」
鋭く睨みつけると、逃げるように、女子生徒達はすぐに私から目を逸らした。
まったく。
私は、内心で深いため息をこぼした。
彼女達の浅はかすぎる行動に、怒りを通し越して、哀れみさえ覚えてくる。
公爵令嬢である私に睨まれたら終わり。
逆らうことはできず、縮こまることしかできない、というのはわかるのだけど……
今や、フィーも立派な公爵令嬢なのだ。
そんな彼女をいじめていることが公になれば、どうなるか?
そのことがわからないほどのおバカさんなんて……ホント、頭が痛くなる。
「……あなた達」
「「「は、はいっ!?」」」
「妹はいますか? それとも、姉は? 弟は? 兄は?」
女子生徒は一度顔を見合わせてから、こちらの問いかけに答える。
「私は……妹が」
「兄と姉が、います」
「歳は離れていますが、産まれたばかりの妹が……」
「ならば恥を知りなさいっ!!!」
「「「っ!?」」」
女子生徒達がビクリと震えた。
それに構うことなく、私は鋭い声で、怒りに満ちた声で言う。
「大事に思う家族がいるのならば、わかるでしょう? 家族を傷つけられたのならば、どんな気持ちになるか。どれだけの怒りと悲しみを覚えるか」
「あ……」
「私とフィーは、つい先日、家族になったばかりです。しかし、時間は関係ありません。フィーは私の大事な妹です。その妹を傷つけようというのならば……容赦はしません」
サァっと、女子生徒達の顔色が青くなる。
ようやく、自分達がしでかした愚かさを理解した様子だ。
「「「も、申しわけありませんっ!」」」
顔を青くして、震えて……
そのまま大きな声で謝罪をして、必死な様子で頭を下げてきた。
その場しのぎではなくて、本心からの謝罪に見えた。
こちらの言いたいことを理解してくれたのだろう。
徹底的に叩く……ということは、やめておこう。
フィーを傷つけたことは許せないのだけど、でも、むやみに刃を振り下ろすことは好きじゃない。
反省してくれたのならば、それでよしとしよう。
かわいいフィーも、そこまでは望んでいないと思うし。
「わかりました。あなた達の謝罪を受け入れます」
「「「えっ?」」」
簡単に謝罪が受け入れられるとは思っていなかったらしく、女子生徒達がキョトンとした。
公爵令嬢にケンカを売るような真似をしたのだ。
最悪、家の取り潰し……そこまでの未来を想像していたに違いない。
ただ、そんなことをするつもりはない。
そこまでしたら、家の権力を振りかざしているだけであり、悪役令嬢そのものだ。
バッドエンドを避けたいというのに、悪役令嬢らしくしてどうするというのか。
あとは、なによりもフィーのためだ。
どうしようもないほどに断罪をして追いつめたら、逆上するかもしれない。
その場合、私だけではなくてフィーに危険が及ぶかもしれない。
それは絶対にダメ。
向こうも致命的と言えるほどにひどいことはしていないので……
この辺りで、互いに矛を収めよう、というわけだ。
「あなた達が家族を大事にするように、私も妹を大事に想っています。なので、さきほどのような真似はやめてください。私の言うことは、わかりますね?」
「「「はい……申しわけありませんでした」」」
ちゃんと反省しているらしく、女子生徒達は肩を落としていた。
それならば、これ以上言うことはない。
「今回はこのようなことになりましたが……ですが、次は何事もなく、笑顔で楽しい話ができるようになりたいですね」
「あ、あの……私達のことを許してくださるのですか?」
「はい」
「どうして……?」
「だって、嫌いな人を作るよりも、友達を作った方がいいじゃないですか」
にっこりと言うと、女子生徒達は目を丸くした。
次いで、なぜか見惚れたような感じで、頬を染める。
「「「……お姉さま……」」」
「え?」
「なんで慈悲深い……」
「まるで女神のようですわ……」
「私、お姉さまのファンになりました……あ、お姉さまと呼んでもよろしいですか?」
「え? あ、はあ……まあ、構いませんが」
「「「きゃーっ」」」
困りつつも笑顔を向けると、女子生徒達は黄色い声をあげた。
ついでに、周囲の生徒達も歓声をあげた。
え? なに?
これは、どういうこと?
私、なにもしていないよね?
それなのに、どうしてこんな反応に……うーん?
まあ……いいか。
なにはともあれ、フィーがいじめられるという事態は避けられた。
今後の心配もいらないと思う。
「それじゃあ、フィー。また後で」
「あ……アリーシャ姉さま!」
「はい?」
「あの、その……あ、ありがとうございます!」
「お礼なんて言わないで。妹が困っていたら、それを助けるのは姉の役目なのですから。私はただ、当たり前のことをしただけですよ」
なにか困っていることがあれば、いつでも頼るように。
そんなことを言うように、軽くフィーの頬を撫でて、教室を後にする。
「……」
廊下に出ると、なんともいえない顔をしたアレックスが。
「どうしたのですか?」
「……ありがとな」
「え?」
「俺じゃあ、なにもできなかった。割って入ることはできても、貴族を相手に戦うことはできなかった。だから……助かった」
思わず目を丸くしてしまう。
まさか、アレックスにお礼を言われるなんて……
しかも、こんなにも素直。
「な、なんだよ?」
「もしかして……あなた、アレックスの偽物ですか?」
「なんでだよ!」
当然だけど、怒られる私だった。
ああもう。
なんでこう、余計なことを言ってしまうのだろうか……