帰宅して、自室へ。
 着替える気力もなくて、学院の制服のままベッドに転がる。

「うぅ……」

 私は落ち込んでいた。

 世界の強制力なのか。
 それとも、単純にタイミングが悪いのか。

 フィーと仲良くなることができず……
 ヒーローと顔見知りになることすらできていない。

 ダメダメだ。
 せっかくやり直すことができたのに、なに一つうまくいっていない。

 凹む。

 このままだと破滅を迎えてしまう……ことは、ぶっちゃけ、あまり気にしていない。
 人間、死ぬ時は死ぬ。
 そこを気にしすぎていたらなにもできない。

 それはまあ、破滅を避けられるのなら避けたい。
 ただ、それ以上に妹と優しいヒーロー達のことが気になる。

 前回はまともにお別れをすることができず、ただ悲しみだけを残してしまった。
 そんな事態は避けたい。
 だから、破滅を回避する。

「とはいえ……」

 現状、なにも前進できていない。
 むしろ、後退すらしつつある。

「うーん」

 さて、どうしたものか?
 現状のままだと、破滅は避けられない。

 ただ、特にフィーやヒーロー達と仲良くなっていない。
 それなら残される人のことを気にすることなく、旅立つことができるのでは?

 なら、このままなにもしないという選択肢も……

「って、それはありえないですね」

 なにもしなければ、なにも問題ならない。
 確かにその通りだけど、それでは生きていないのと同じ。
 生きながら死んでいるのと変わらない。

 そんな生き方はまっぴらだ。

 私は、私らしく。
 悪役令嬢らしく、わがままに生きてみせよう。

「さて、落ち込んでいても仕方ないですね」

 気持ちの切り替え、完了。
 私服に着替えて部屋を出る。

 目的地は、もちろん妹の部屋だ。

「シルフィーナ、いますか?」

 扉をノックして、待つこと少し。

「は、はい……?」

 そっと扉が開いて、フィーが顔を出した。

 まだ私に慣れてくれていないらしく、おっかなびっくりという様子だ。
 小動物みたいでかわいい。

「な、なんでしょうか……?」
「今、大丈夫ですか? よかったら、一緒にお茶をしませんか?」
「えっと……」

 困った、という感じでフィーの目が泳ぐ。

 どうにかして断ろうと考えているみたいだけど……
 それはダメ。

「さあ、いきましょう」
「え? え?」

 フィーの手を掴み、そのまま部屋の外に連れ出した。

「あ、あのっ、アリーシャさま!? 私は、そのっ……」
「もう準備をするようにお願いしていますからね。あまり待たせてしまうと、せっかくのおいしいお茶が冷めてしまいますよ」
「あ……は、はい」

 フィーは諦めた様子で、小さく頷いた。

 おとなしいフィーに強引に迫れば、余計に嫌われてしまう可能性がある。
 ただ、ゆっくりと距離を詰めようとしても、なかなかうまくいかないことはここ数日で証明済みだ。

 ならばもう、私らしく強引に行くことにしよう。
 フィーが歩み寄ってくれるのを待たない。
 こちらからグイグイと突き進む。

 うん。
 それこそが私らしさというものだろう。

 迷惑?
 フィーが怯える?

 最終的に仲良くなれれば問題なし。
 後々で、あの時は、という感じで笑い話になればいいのだ。

「というわけで、今日は離しませんよ?」
「ど、どういうことですかぁ……!?」
「ふふ」