悪役令嬢の私ですが、メインヒロインの妹を溺愛します

 前回の私は、フィーとの初対面で失敗することはなくて……
 その後、わりとすぐに良い関係を築くことができたはずだ。

 しかし、今回の私は……

「あっ、ふぃ……シルフィーナ。おはようございます」
「お、おはようございます、お姉さま……!」
「よかったら、これから一緒にお茶でも……」
「も、申しわけありません! よ、用事がありまして……!」

 怯えるうさぎのように、フィーは逃げ出してしまう。

「……」

 がくりと、その場で崩れ落ちる私。

「フィーが……かわいいフィーが、私を避けるなんて……うぅ、反抗期になってしまったのでしょうか?」

 いや、まあ。
 やり直したのだから、好感度もリセットされたことは理解している。

 ただ、それはそれ、これはこれ。
 かわいい妹に拒絶されてしまうと、どうしても凹んでしまう。

「ふむ」

 フィーのことは、しばらく時間を置いた方がいいかもしれない。

 それよりも、破滅回避を優先するべきか。
 ゼノスを探し出す。
 あるいは、ヒーローと仲良くなり、結ばれる。
 それが一番だろう。

「なんて……そんな結論に達することは、1パーセントもありません!」

 確かに、破滅は回避しなければいけない。
 そのために、私は過去に戻ってきた。

 しかし。
 しかし、だ。

 破滅を回避するために、かわいいかわいい妹の問題を後回しにするなんて、そんなこと、できるわけがない!
 全ての物事において、最優先されるべきはフィーのこと。
 妹のことだ。

 もう一度、破滅を迎えるとしても、私は妹を優先するだろう。
 そして、その選択に後悔することはないだろう。

 なぜ、そこまでできるのか?

 答えは簡単。
 私の妹が世界で一番かわいいからだ。

「というわけで……フィー、ではなくて、シルフィーナ」

 さっそくフィーの部屋を訪ねる。
 ついつい「フィー」と呼んでしまったのだけど、やり直したため、まだ愛称で呼ぶことは許可されていない。

 今のフィーなら、お願いすれば了承はしてくれるだろうけど……
 そうではなくて、自発的にお願いしてほしい。

「は、はい……?」

 おずおずという感じで、フィーが部屋から出てきた。
 小動物みたいな妹……これはこれでアリ!

 おっと、いけない。
 ひとまず欲望は押し隠して、にっこりと笑う。

「一緒にお茶でもどうですか?」
「え? えっと、その……べ、勉強をしないといけないので!」
「なら、私が見てあげましょうか?」
「ふぁっ!? え、えっとえと……ま、まずは一人でがんばるべきだと思うので!」
「……勉強の後は?」
「う、運動をしてみようと思います! で、では!」

 フィーは慌てた様子で部屋に戻ってしまう。

「……」

 一人、その場に残された私は灰になっていた。

「フィーが……私と距離を取ろうと……」

 子供にうざいと言われる父親は、このような気持ちなのだろうか?
 そんなことを考えてしまうくらい、ショックだった。

 なにがいけないのだろう?
 今日は、普通に接していたと思うから……

「最初に出会った時、抱きしめたことがいけない……?」

 あれは、ついつい感極まってやってしまったことなのだけど……
 悪意や敵意はまったくない。
 親愛のみだ。

 それなのに、怯えられてしまうなんて……

「この顔がいけないのでしょうか?」

 窓ガラスを見て、自分の顔を確認する。

 美人ではあると思うが、目は吊り目。
 全体的にシャープな印象で、きつい感じはする。

 こんな女性がいきなり抱きついてきたら?

「……訳がわからなくて、怖いですね。はい」

 やらかしてしまった。
 がくりと、その場で膝をついてしまう。

「このままでは、フィーと仲良くなることができない……アリーシャ姉さまと、笑いかけてもらうことができない……まずい、非常にまずいですね」

 破滅がどうでもよくなるくらい、まずい。

 ただ、本気でどうでもいいというわけじゃない。
 なにも対策をしなければ、私は、また世界の強制力とやらに殺されるだろう。

 また原因不明の病にかかるか……
 あるいは、悪役令嬢らしく断罪されるだろう。

「うぅ、おかしいですね……」

 やり直し。
 二周目と言えば、強くてニューゲーム。
 チートが当たり前なのだけど、ぜんぜんチート要素がない。

 むしろ、難易度がアップしているような気がした。
 前回がノーマルなら、今回はハードだ。
 ノーマルでクリアーできなかったのに、ハードに挑んでどうする。

「とはいえ、愚痴をこぼしていても仕方ないですし……どうにかするしかないですね」

 破滅の回避と、フィーと仲良くなること。
 どうにかして、この二つを両立させていこう。