「……っ!?」

 がばっと、勢いよく起きる。

 慌てて周囲を見ると……

「私の……部屋?」

 目が覚めると、私は自分の部屋で寝ていた。
 寝起きだけど、しかし、頭はハッキリとしている。

 アリエルと話をして……
 新たに、人生をやり直すことにして……
 そして、今度こそ破滅を回避する。

 記憶はしっかりと残っているのだけど……
 ただ、あまりにも現実離れした話だ。
 実は、原因不明の病に倒れたままで、たまたま目を覚ましただけ、という方がしっくりと来る。

「……いえ」

 現実離れしているというのなら、悪役令嬢に転生するのも現実離れしている。
 今更、そういう部分を疑っていたら意味がない。

「とはいえ、無事に戻れたのかどうか……よくわかりませんね」

 ひとまずベッドから降りて、メイドを呼び、着替えを手伝ってもらう。
 基本、ドレスで過ごすことが多いから、一人だと難しいのだ。

 それから頼んだ紅茶を飲み、心を落ち着ける。

「ふむ」

 確か、私が最後を迎えたのは秋だったはず。
 でも、今は寒くない。
 窓を開けてみると、ぽかぽか陽気が差し込んでくる。

 春……かな?

 だとしたら、アリエルの力で最初からやり直すことができたのだろう。

「ゼノスを探し出すか、ヒロインに昇格する……よし」

 どちらも困難だ。

 ゼノスを探し出すにしても、相手は神。
 どこに隠れているかわからないし、人の足で行けるところにいないかも。
 アリエルの話では、誰かに化けているかもしれないという可能性もあるらしいし……
 気合を入れてかからないと、達成は難しそうだ。

 ヒロインに昇格するというのも、やはり厳しい。
 前世を含めて、彼氏なんていたことはない。
 男友達も、アレックスとジークとネコが初めてだ。

 そんな私がヒーローと結ばれるなんて……

「……とんでもない無理ゲーのような気がしてきましたね」

 ベッドに入り、現実逃避をしてしまいたくなるほど、なかなかに状況は絶望的だ。

 でも、諦めるわけにはいかない。
 アリエルにも言ったが、私は、この世界でやり残したことがある。
 それを達成するまでは、死んでも死にきれない。

 その目的というのは……

「あ……はい?」

 ふと、扉をノックする音が響いた。
 返事をすると、メイドが姿を見せる。

「アリーシャお嬢さま。旦那さまと奥さまがお呼びです」
「父さまと母さまが?」

 父さまは公爵の仕事で毎日忙しく、母もそのサポートで忙しい。
 昼間から家にいることなんて滅多にない。

「……なら、これは」

 一つ、心当たりがある。
 多忙な父さまと母さまが家に戻り、長女の私を呼び出すような理由。
 それは……改めて、運命の始まりを告げるためだ。



――――――――――



「は、はじめまして! 私は、その、あの……シルフィーナと申します!」

 父さまと母さまに呼び出された先で、ガチガチに緊張した女の子に、そんな挨拶をされた。

「落ち着いて、よく聞いてほしい。この子は、実は……お前の妹なのだ」
「はい、それはもうよく知っていますとも! ようこそ、フィー!」
「ふぎゅ!?」

 私は満面の笑みで、大事な大事な妹を抱きしめた。

 体感時間では、フィーと離れてさほど経っていないのだけど……
 でも、一度死んだからなのか、無性に妹のことが懐かしい。

 フィーに対する愛で胸がいっぱいになる。
 こんな状態で、妹を抱きしめないなんてこと、できるだろうか?
 いや、できない。

 ならば、これは自然の摂理。
 世界の真理。

 というわけで、私は、思う存分にかわいい妹を抱きしめる。

「あ、あのっ、えと、あのあの……!?」

 慌てる妹、かわいい。

「あ、アリーシャ……? ど、どうしたんだい?」
「その……よくわからないのだけど、シルフィーナが苦しそうですから……」
「……あっ」

 しまった。
 ついつい妹の対する愛が爆発して、暴走してしまった。

 やり直した今、私とフィーは初対面。
 ならば、それらしい対応をしなければ。

「こほん……ごきげんよう。私が、今日からあなたの姉になる、アリーシャ・クラウゼンです。よろしくおねがいしますね」
「は、はい……」

 にっこりと笑うのだけど……
 いきなり抱きしめたことがまずかったらしく、フィーは怯える子猫のような目をしていた。

 やらかした……