悪役令嬢の私ですが、メインヒロインの妹を溺愛します

 かわいい妹にあれこれとしてもらうのは、とてもうれしい。
 大事に想ってくれていると実感できるからだ。

 その一方で、かわいい妹に心配をかけてしまうことは申しわけない。
 悲しい顔よりも笑顔が見たい。
 そう思うのは当たり前のことだろう。

「よし」

 いつまでも寝込んでなんていられない。
 原因不明の病だろうがなんだろうが、早く治してしまわないと。

 医師を頼りにしつつ……
 自分でも色々と調べてみることにしよう。

 案外、素人視線が問題解決に関係することがあるかもしれない。

「原因不明と言われると、大層な病に聞こえるのですが、それほど深刻な症状はないんですよね」

 目立った症状といえば、水の中にいるかのように体が動かしにくいこと。
 時々、息切れを起こしてしまうこと。
 あと、稀に意識を失ってしまうこと。

 ……こうして列挙してみると、わりと深刻な問題だった。

 ただ、まったく動けないわけじゃない。
 発作がいつも起きるわけではないので、それ以外の時は、ややしんどいが動くことはできる。

「よし、がんばりましょう」

 私は気合を入れて、ベッドから降りた。
 そして、屋敷内にある書庫へ。

 屋敷内に図書館と思えるくらいの本が収められている。
 本好きのお父さまが、あちらこちらから集めてきたものだ。

 まずは、書庫を調べてみることにしよう。
 灯台元暗し。
 意外とこういうところにヒントがあったりするものだ。

 私は書庫へ移動して、本が収められた棚を見て回る。

「ふむ……」

 病気の原理が記された本。
 治療法が記された本。
 色々な奇病について記された本。

 ひとまず、病気に関する本を手当たり次第に取り、それらを読書スペースで目を通していく。

 ……一時間後。

「簡単に行くとは思っていませんでしたが、まったくかすらないとは」

 主に原因不明の病について調べてみたのだけど、なにもわからない、ということがわかった。

 私の症状に当てはまる病気は載っていない。
 当たり前だけど、対処法も載っていない。

 そもそも……

 魔法があるこの世界で、治療不可の病気なんてほとんどない。
 故に、原因不明の病気もほとんどない。

「書庫を漁ったとしても、そもそもの知識が欠けている可能性が高いですね」

 書物は、知識や事象を記録しておくものだ。
 その前提となる事象が確認されていなければ、記されることはない。

「なかなか厄介ですね」

 すぐに解明できるとは思っていないが、手がかりの欠片くらいは手に入ると思っていたのだけど……
 うまくいかないものだ。

「ひとまず本を戻して、それから……っ!?」

 突然、ガツンと頭を殴られたかのような、ひどい頭痛に襲われた。
 立っていることができず、その場に膝をついてしまう。

 それだけじゃない。
 重力が増しているかのように体が重くなり、体を支えることができない。

 手足の自由もきかなくて……
 そのまま倒れてしまう。

「……アリーシャ姉さま、こちらにいると聞いて……アリーシャ姉さま!?」

 薄れゆく意識の中、フィーの悲鳴を聞いたような気がした。

 ごめんなさい、フィー。
 また、あなたを悲しませてしまった。
 やっぱり、私は悪役令嬢で、ダメな姉なのかもしれない。



――――――――――



 私は、三日ほど寝込んでしまったらしい。

 その間、意識はなくて……
 おまけに高熱も出ていたとか。

 なんとか意識は回復したものの、微熱は続いている。
 体もだるく、自力で歩けそうにない。

「アリーシャ姉さま、大丈夫ですか……?」
「大丈夫ですよ」

 本当は大丈夫ではないのだけど……
 かわいい妹を心配させたくなくて、無理に笑顔を浮かべてみせた。

「無理するなよ。アリーシャは、いつも無理してるから……そのせいかもしれないんだからな」

 アレックスも、とても心配そうにしてくれていた。
 フィーと同じく、毎日、お見舞いにやってきてくれている。
 ヒーローらしく友情に厚い。

「今日は、宮廷医師から薬を預かってきたよ。これを飲むといい」

 ジークも、毎日、私の様子を見に来てくれている。
 しかも、貴重な薬を毎回持参している。

 そこまでしてもらうと申しわけないのだけど……
 でも、彼の厚意を否定したくないので、素直に受け取っておいた。

「これ、学院のノート。勉強に遅れないように、後でちゃんと勉強してね? まあ、私の字はちょっとアレだから、大変かもだけど」

 ネコが笑う。
 ただ、無理をして笑っているように見えた。
 私に心配をさせまいとしているのだろう。

「なんで、こんな急に悪化するんだよ……くそ。ジークさま、アリーシャの病気は、まだなにもわからないのか?」
「すまない……色々な宮廷医師に診てもらい、意見を聞いているのだけど、まだなにも」
「アレックス、ジークさまに当たらないで……」
「そう、だな……悪い。ジークさまだって、辛いよな」
「そう言ってもらえると、助かるよ」

 みんなの間の空気がおかしい。
 私のせいで、少しギスギスしてしまっているみたいだ。

 ケンカなんてしてほしくない。
 今までみたいに仲良くしてほしい。

「……どうして」

 こんなことになってしまったのだろう?