悪役令嬢の私ですが、メインヒロインの妹を溺愛します

「……ん……」

 ふと、目が覚めた。
 暗闇に沈んでいた意識がゆっくりと浮上する。

「ここは……」

 そっと目を開けると、見慣れた天井が見えた。
 私の部屋だ。

 ベッドに寝ているみたいだけど……
 えっと、なんで私は寝ているのだろう?

「アリーシャ姉さま!!!」
「ひゃっ」

 よく見ると、すぐ傍にフィーがいた。
 とても心配そうな顔をしていて、抱きついてくる。

「ど、どうしたんですか……?」
「どうしたもこうしたも……うぅ、アリーシャ姉さまがちゃんと起きて、良かったです……!」
「えっと……」

 状況が理解できない。
 できれば説明してほしいのだけど、フィーは泣いたまま、私から離れてくれない。

「よかった、起きたみたいだね。今回は、さすがの僕もヒヤリとしたよ」
「ったく……突然倒れるとか、人を驚かせるなよ」
「ジークさま? アレックス?」

 なぜ、この二人が?

 混乱する私に、ジークがゆっくりと説明してくれる。

「アリーシャ、君は倒れたんだよ」
「私が……倒れた?」
「覚えていないのかい? シルフィーナの話によると、体調が悪そうで、それで突然倒れたらしいけど」
「……そういえば」

 うっすらとだけど思い出した。

 フィーと一緒に下校して、おしゃべりをして……
 でも、途中でフィーが私の顔色が悪いと言い出して、その言葉が現実になるかのように私は意識を失ったのだ。

「なんとなくですが、思い出しました」
「倒れるとか、あまり心配かけないでくれよ」

 アレックスがぶっきらぼうな様子で言う。
 怒っているのではなくて、素直に心配ができないのだろう。

「心配してくれたのですね」
「なっ……そ、それは、ほら……仕方なくだよ! シルフィーナが慌ててたから、そのせいで不安を煽られたというか」
「僕は心配したかな。アリーシャが倒れるなんて初めてのことだから、とても驚いて、心配したよ」
「む……俺だって心配したさ。わりとマジで焦った」
「そうなのかい? その割に、けっこう冷静だったように思えたけど」
「それはジークだろう。俺は、すごく慌てていたさ。心配していたからな!」
「僕も心配していたさ」
「くっ」
「ぐっ」

 妙なことで張り合う二人。
 なぜ、そんなことで競うのだろうか?
 どちらがより深く心配したかなんて、どうでもいいと思うのだけど。

 ただ、どちらにしても申しわけない話だ。

「心配をかけてしまい、申しわけありません」
「あ、いや……君が謝ることでは」
「そ、そうだよ。体調が悪い時なんて誰にでもあるんだから、気にするな」
「……ありがとうございます」

 二人共、とても優しい。
 さすがヒーローだ。
 普通なら、心惹かれていたかもしれない。

 まあ、私は悪役令嬢なので。
 彼らと結ばれるなんてことはありえないので、なんとも思うことはないが。

「アリーシャ姉さま、気分はどうですか? 気持ちわるくないですか? 頭痛や吐き気、熱を感じたりしますか?」
「えっと……」

 体を軽く動かして、不調がないか確認する。

 手足はちゃんと動く。
 指先が痺れるということもない。

 思考はクリアー。
 妙な不安や焦燥感もなし。

「大丈夫みたいですね」
「本当に?」
「本当ですよ。気持ち悪いということはなく、違和感があるということもありません」
「よかった……」

 フィーは、ほっとした様子で小さな吐息をこぼした。
 アレックスとジークも、同じく表情を柔らかくする。

 ずいぶんと心配をかけてしまったみたいだ。
 そのことが申しわけない。

 ……でも、心配するフィーはかわいい、と思う私はもうダメなのかもしれない。

「……」

 フィーは、まだ不安そうな顔をしていた。
 恐ろしいものを耳にしたような、そんな顔をしているのだけど、どうしたのだろう?

「フィー」
「……」
「フィー?」
「……あっ、は、はい!?」

 よかった、返事をしてくれた。
 かわいい妹に無視をされたら、それだけでショックで死んでしまえる。

「どうしたのですか、難しい顔をしていますが」
「それは……」
「……シルフィーナ。ここは、僕が話そう」

 バトンタッチ。
 ジークが神妙な顔をして、フィーの前に立つ。

 なぜ、そんな顔をしているのだろう?
 見れば、ジークも似たような顔をしていた。

 嫌な予感がする。

「君が倒れたと聞いて、僕はすぐに医者を手配した。シルフィーナの話を聞いたところ、最初は風邪だと思っていたのだけど……よくよく考えてみれば、風邪で倒れるなんてことはそうそうない。そこまで悪化しているのなら、そもそも、最初から歩けないだろうからね」
「それは……」

 確かに、その通りだ。
 私は放課後まで、特に問題なく過ごしていた。

 風邪気味だったとしても、倒れるほど急に悪化するとは考えにくい。
 それなら、私は……?

「結論から言うと……君は、原因不明の病に侵されている」