「アリーシャ姉さま?」
「っ!?」

 フィーに声をかけられて、我に返った。

「今のは……」

 いったい、なんなのだろう?

 突然、どうしようもない恐怖に襲われた。
 狂ってしまいそうなほどの孤独感に飲み込まれた。

 フィーに声をかけてもらわなかったら、そのまま帰ってこられなかったような……
 そんな恐怖を覚えた。

「アリーシャ姉さま、大丈夫ですか? 顔色が悪いですが……」
「……大丈夫ですよ。ちょっと嫌なことを考えてしまっただけですから」
「嫌なこと?」
「些細なことです」

 ウソをついた。

 この先、もしもゲーム通りに進むのだとしたら……
 私はフィーに断罪されることになる。
 そんなのは絶対にイヤだ。

 それに、姉を断罪する妹、なんてことをフィーにさせるわけにはいかない。
 フィーはとても優しい子だから、きっと心が傷ついてしまう。

「……よし」

 小さな声で呟いた。

 私は、改めて破滅の未来に抗う決意をした。

 それは、私自身のためではあるのだけど……
 でも、フィーのためでもある。

 妹に余計な使命を与えないように。
 負担をかけないように。
 破滅イベントなんてもの、回避……いや。
 真正面から叩き潰してみせる!

「アリーシャ姉さま? なにやら意気込んでいるみたいですが、どうしたんですか?」
「いえ、なんでもありません」
「はぁ……」

 フィーはよくわからない様子だけど……うん、それでいい。
 妹に負担をかけることなく、この問題を解決してみせる。

「ところで、アリーシャ姉さま」
「はい、なんですか」
「その……お体は大丈夫ですか?」
「え?」

 それはどういう意味だろう?
 怪我も病気もしていないはずなのだけど……

 こちらの戸惑いを察した様子で、フィーは難しい顔に。

「えっと、その、なんていうか……うーん」

 フィーはあわあわとした感じの顔になり、次いで、小首を傾げる。

 うん、かわいい。
 慌てるフィーも小首を傾げるフィーも、どちらも天使だ。

 ……いや、待てよ?

 最近の私は、フィーのかわいらしさを例える言葉に天使ばかりを使っているような気がする。
 それはダメだ。

 言葉が偏っていたら、フィーのかわいらしさが正確に伝わらないかもしれない。
 もっともっと言葉を覚えて、妹の素晴らしさをより正確に伝えなければ。

 ……なんてことを考えている間に、フィーが私の顔を覗き込んできた。

「んー……」
「ふぃ、フィー?」

 妹の顔が間近でドキドキ。
 かわいいから仕方ないよね?

「やっぱり、アリーシャ姉さま、体調が優れないのでは?
「え?」
「耳が赤いですし、いつもの凛とした表情は隠れていて……ほら、おでこも熱いです」

 フィーの小さな手が私のおでこに伸びる。

 こんなことをされたら、普段の私なら喜び、フィーを抱きしめていたのだけど……
 なぜか、今はそうする気になれない。

 体が重いというか、怠いというか……
 妙に億劫だ。

「そう、ですね……言われてみると、体調に不安があるのかもしれません」
「やっぱり!」

 あわあわとフィーが慌てた。

「ど、どうしましょう? 急いで家に連絡をして、誰かに迎えに来てもらって……あ、でもどうやって連絡をとれば?」
「ふふ。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」
「でも……」
「確かに体調が優れないみたいですが、今すぐどうこうなるわけではなさそうなので」

 体が重い。
 頭がぼーっとする。

 たぶん、風邪の初期症状だろう。
 命の危険があるわけではないだろうし、家に帰り、おとなしくすれば治るだろう。

 そう考えていたのだけど……

「あ……れ?」

 どうやら、私は思っていたよりも重症だったらしい。

 急に体から力が抜けて、その場に膝をついてしまう。
 視界が暗くなり、意識も遠のいていく。

「アリーシャ姉さま!?」
「フィー……私……」

 最後に見えたのは、泣きそうなフィーの顔。

 ああ……
 やっぱり、私は悪役令嬢なのだろう。

 大事な妹を泣かせてしまうという、とんでもなく悪いことをしてしまったのだから。