学院に登校して、授業を受けて、昼食を妹と友達と一緒に食べる。

 なんてことのない日常。
 でも、それはとても大事なもので……

 穏やかな幸せに浸りつつ、私はいつも通りの日々を過ごしていた。

「アリーシャ」

 放課後。
 教室の外に出たところで、アレックスに声をかけられた。

「こんにちは、アレックス」
「おう。その、なんだ……偶然だな!」

 一年と二年では教室が違う階にある。
 偶然、顔を合わせるということはないと思うのだけど……
 ふむ、どういうことだろう?

「だから、えっと……偶然だな!」
「はい?」
「いや、そうじゃなくて……」

 アレックスは、なぜか落ち着かない様子だ。
 なにか言いたそうにしているのだけど、なかなか本題に入らない。

「つまりだな」
「はい」
「今日は、その、俺と一緒にかえ……」
「アリーシャ姉さま」

 フィーがやってきた。

 アレックスがなにか言いかけていたのだけど、気にしない。
 全ての物事において、妹が最優先される。
 これは、世界共通の認識だ。

 だよね?

「どうしたのですか、フィー? もしかして、私に会いに?」
「はい」
「あら、冗談だったのですが」
「えへへ、アリーシャ姉さまとは、いつも一緒にいたいですから」

 フィーは、ちょっと照れた様子で笑う。

 妹、かわいい。
 天使を超えて、もはや女神だろう。

「それで、その……一緒に帰りませんか?」
「ええ、もちろん」

 二つ返事で了承した。
 妹の誘いを断る姉なんていない。
 いるわけがない。

 大事なことなので二度言いました。

「あ、アレックスもいたんだね」
「お、おう……」

 今、アレックスの存在に気がついたらしく、フィーが小さく驚いていた。

 うーん?
 この二人、メインヒロインとヒーローのはずなのに、そういう気配がまったくない。

 まあ、かわいいかわいい妹に恋人なんてまだ早いので、良いことなのだけど……
 だからといって、ヒーローと恋仲になれずバッドエンド、というのは困りものだ。
 多少は仲良くなってほしいのだけど、関係が進展する様子はない。
 なぜだろう?

「さあ、帰りましょう。アリーシャ姉さま」

 フィーに手を引かれ、細かいことは後で考えることにした。
 今は、愛しい妹との時間を大事にしよう。

「あ……そういえば。アレックス、さきほどなにか言いかけていましたが、なんですか?」
「……いや、なんでもねえよ」

 なぜか、アレックスは意気消沈した様子だった。
 そのまま、力ない足取りで立ち去ってしまう。

「アリーシャ姉さま、アレックスはどうしたんですか?」
「よくわかりません」

 私達姉妹は、揃って小首を傾げるのだった。

 その後、気を取り直してフィーと一緒に下校する。
 帰路は長くない。
 それに、家に帰っても一緒に過ごすことが多い。

 でも、こうして一緒に帰る時間は、それはそれで趣があるような気がした。
 家では侍女や執事がいて、二人きりになれる機会は少ない。

 でも、今はフィーと二人きりだ。
 静かな時間を過ごすことができて、とても落ち着くことができた。

(……思えば、私は)

 こういう安らぎを求めていたのかもしれない。

 私は悪役令嬢。
 いずれ断罪されて、破滅の未来がやってくるだろう。

(破滅……悪役令嬢……)

 今はうまくやっているような気がする。
 でも、この先どうなるかわからない。
 急転直下で転落していく可能性もある。

 正直に言おう。
 破滅を迎えることがとても怖い。
 死にたくなんてない。

 痛い思いはイヤ苦しい思いはイヤ辛い思いはイヤ。
 イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ……
 死にたくなんてない!!!

 私は……