「なるほど……それ、悪くないかもしれないな」

 最初に賛成したのはジークだ。
 うまくいくと考えているのか、表情は明るい。

 ただ……うーん?
 希望を見出したというよりは、なんかうれしそうなのだけど……なんでだろう?

「悪くはないかもしれないけど、でも……」

 対象的に、ジークの顔は微妙だ。

 苦虫を噛み潰しているというか、つまらなそうにしているというか。
 不満そうに見えるのだけど、その理由がわからない。

 ……まあいいか。

 今は、アレックスの問題を解決するのが一番。
 細かいことは放置しておこう。

「ただ、一つ問題がありまして……」
「アレックスが利用されてしまうという問題はなくならない。根本的な対処が必要だけど、でも、今はどうすればいいかわからない……ということですか?」
「はい、その通りです。さすがですね、フィー」
「えへへ」

 私の考えを代弁するかのように、フィーが言う。

 妹、賢い。
 なでなですると、うれしそうに目を細くした。

 猫か。
 いや、猫以上にかわいいけど。

「とはいえ、一つ、案があります」
「そうなのかい?」
「はい」

 実はこの展開、ゲームにあったりする。
 アレックスルートの中盤でやってくる事件だ。

 ゲームでは、恋人のフリをメインヒロインが演じて……
 それがきっかけとなり、二人は互いに想いを自覚する……という流れだ。

 おのれ。
 ゲームとはいえ、フィーと恋人のフリをするなんて。
 許せん。

 って、話が逸れた。

 そんな展開があるため、今回の策を思いついた。
 そして、追加の策もバッチリだ。

「ジークさま、お願いがあるのですが……」
「うん? なにかな?」
「アレックスの父親について、探りを入れてくれませんか?」
「探りと言われても……どういうことに関することなのか、もう少し具体的な指定をしてほしいのだけど」

 ちらりと、アレックスを見る。
 彼の父親の恥を晒してしまうことになるのだけど……

 でも、今までの反応から察するに、父親のことはなんとも思っていないだろう。
 恥を知れば怒りを覚えるかもしれないが、悲しみを抱くことはないはず。

 そう判断して、具体的な話をする。

「彼は色々な不正を働いていると思われます」
「ふむ」
「具体的な内容は……今は伏せておきますが、それらが明らかになれば、今の地位を保つことは難しいでしょう。むしろ、それだけではなくて投獄されるかと」

 フィーの手前、具体的な話をすることは避けた。

 だって、そうだろう?
 違法な薬物の取り引きに、奴隷の売買。
 女性に対する暴行に、果ては殺人。

 アレックスの父親は、引き返すことができないところまで足を突っ込んでいるはずだ。
 そんな話、かわいい妹の前ですることなんてできない。

 私の言いたいことを大体察したらしく、ジークは難しい顔に。
 王子だけあって、さすがに頭の回転が速い。

「アリーシャの言うことが本当なら、彼を潰すことができるね。ただ、証拠は?」
「ありません」
「おいおい……」

 だって、仕方ないでしょう?
 前世の知識なんて言うわけにはいかない。

「そもそも、そんな話、どうして知っているんだい?」
「それは秘密です」
「……根拠不明の話を信じろと?」
「信じていただけませんか?」

 ややあって、

「……やれやれ」

 ジークは苦笑した。

「無茶な話をしてくれるね」
「ジークさまだからこそ、です」
「僕が甘いのか、それとも、アリーシャがすごいのか……なかなか判断に迷ってしまうね」
「結論は?」
「いいよ」

 少し意外だ。
 迷うと言っておきながら、わりとあっさりと了承してくれた。

「いいのですか?」
「もちろん」
「私が言うのもなんですが、私がウソをついていたら大変なことになりますよ?」
「アリーシャは、そのようなウソをつく人ではないよ。そのことは、よく知っているつもりだ」

 つまり、私を信じている……ということか。

 悪役令嬢なのに、そんなことを言われるとは思ってなかった。
 正直なところ、少しうれしい。

「では、お願いします」
「ああ、任せてくれ」

 私とジークは笑みを交わして、

「……」

 その一方で、アレックスがどこかつまらなそうな顔をしていた。