アレックスは、教会を盾に父親の道具にされようとしている。

 見合いと言われているが、それは建前。
 アレックスの父親はそのまま話を進めて、一気に婚約まで持っていくつもりなのだろう。

 しかし、アレックスはそれを良しとしない。
 母と自分を捨てた父親の道具になるなんて、まっぴらごめんだ。

 というわけで、なにか対策を考えなければいけない。

「……というのが現状です」
「アレックス、そんなことになっていたなんて……うぅ、水くさいです。もっと前に、私に相談してほしかったです」

 話を聞いたフィーは、拗ねつつ涙ぐむという、器用なことをしてみせた。
 そんな表情もかわいい。

「ふむ。キミは、なかなか厄介な状況に陥っているね」

 ジークは顎に手をやり、考える仕草を取る。

「ところで……話をするのはいいんだけど、なんで私の部屋?」

 会議の場所は、ネコの家……彼女の部屋だ。
 それが不満らしく、ネコはジト目だった。

「仕方ないではありませんか。ジークさまの家は王城なので、気軽に押しかけるわけにはいきません。私の家も、同じ意味で目立ってしまいます。教会はアレックスの父親にみはられているかもしれません」
「で、消去法で私の家になったわけ? まあ、いいんだけど……」

 こっそりとネコが耳打ちしてくる。

「……アリーシャは、私が男だっていうこと、忘れた?」
「……え?」
「……みんなが来るっていうから、慌てて女の子らしい部屋に戻したんだけど」
「……おつかれさまです」
「……絶対に忘れていたよね? ねえ、そうだよね?」

 忘れてはいません。
 ただ、ちょっとの間、思い出せなかっただけです。

「さて、さっそく会議を開きましょう」
「ごまかした……」

 ネコが恨みがましい目を向けてくるが、気づかないフリをした。
 時に鈍感になることが大事な処世術なのだ。

「アレックスのお見合いを阻止する……というか、父親に都合よく利用されないための方法を。それと、もう一つ。教会の問題を解決する方法を一緒に考えましょう」

 アレックスの父親をなんとかするのはもちろん……
 教会の問題も解決しないといけない。
 そうでなければ、アレックスに安息は訪れない。

「みんな……面倒事に巻き込んで、悪い。ただ、俺は一人じゃどうしようもなくて……どうか、力と知恵を貸してほしい。頼む!」
「今更だよ。アレックスは、大事な友達なんだから!」
「水くさいね、キミは。僕に任せてください」
「なにができるかわからないけど、やれることはなんでもやるわ!」

 みんな、笑顔でジークを受け入れた。
 うん。
 とても頼りになるメンバーだ。

 ただ……
 フィーが、アレックスのことを大事な友達と言ったことが気になる。

 私よりも大事なのだろうか?
 だとしたら許せないのだけど……

「アリーシャ姉さま? どうしたんですか、難しい顔をしていますが……」
「いいえ、なんでもありません。それよりも、少し考えたのですが」

 最初に相談を受けたので、考える時間はみんなより多い。
 私なりの策を口にする。

「アレックスの父親に関する問題ですが……とある策を考えました」
「すごいです。アリーシャ姉さま、もう考えついていたんですね」
「私は少し時間があったので」
「それは、どういうものなのかな?」

 ジークの問いかけに、私は考えていることを言葉にして並べていく。

「アレックス」
「うん?」
「私と婚約いたしましょう」
「ごはっ!?」

 アレックスが吹き出して、

「「「えぇーーーっ!!!?」」」

 他のみんなが大きな声をあげて驚いた。

「ど、どういうことですか!? どうして、アリーシャ姉さまとアレックスが婚約を……」

 中でも、フィーが一番慌てていた。
 アレックスを盗られる、と思っているのか……それとも、私を盗られると思っているのか。

 後者だったらうれしい。
 後者であれ。

「落ち着いてください。婚約といっても、本気で結婚しようと考えているわけではありません」
「どういうことなんだ? 俺らにもわかるように説明してくれ」
「はい。要するに……」

 アレックスの父親は、さらなる権力拡大を求めて、息子を使い政略結婚を企んでいる。
 過去に捨てた息子を利用するというのは、まったく褒められた話ではないのだけど……
 残念なことに、法に触れてはいない。

 正攻法で彼をどうこうすることは難しい。
 できたとしても、時間がかかる。

 なので、まずは時間を稼ぐ。
 そのための方法が、私と婚約することだ。

 アレックスの父親が求めているのは権力なので、公爵令嬢である私と婚約するのなら大歓迎だろう。
 繋がりができるということを示しておけば、まず反対はされないはず。

 そしやって婚約をして……しかし、結婚はしない。
 あれこれと理由をつけて時期を延ばす。
 その間に、アレックスの父親を叩き落とす準備をする。

 それが私の考えた策だ。