ネコという親友ができて、私の生活は少し変わった。

 今までよりも少し華やかに。
 そして、楽しい時間を過ごせるようになった。

 順調に破滅エンドが遠ざかっているのかもしれない。
 それは良いことなのだけど……

「……ふぅ」

 うまくいく私とは正反対に、最近、アレックスの様子がおかしい。

 あまり元気がない。
 そして、今のように悩ましげなため息をこぼすことが多い。

 なにかあったのだろうか?



――――――――――



「アレックス、ですか?」

 帰宅後。
 フィーの部屋を訪ねて、アレックスのことを聞いてみた。

 私にとって、もっとも優先されるべきことはフィーだ。
 アレックスの元気がないと、フィーが気にしてしまうかもしれない。
 果てに、気にかけるあまり、私ではなくてアレックスばかりをかまってしまうかもしれない。

 それはダメ。
 なので、そうなる前に少し探りを入れてみることにした。

「最近、彼の様子がおかしいような気がするのですが」
「言われてみると……」

 フィーも心当たりがあるみたいだ。

「フィーは、なにか知りませんか?」
「えっと……」

 顎に指先を当てて、考える仕草を取る。
 そんなところもかわいい。

 うちの妹は、なにをしてもかわいい。
 天使か?
 いや、女神?

「アリーシャ姉さま?」
「いえ、なんでもありません」

 かわいい妹に見惚れ、ちょっと我を失っていたみたいだ。

「心当たりなのかどうか、よくわからないのですが……」
「なんでもいいから教えてくれませんか?」
「はい。実は……」



――――――――――



 翌日の放課後。
 私はアレックスと一緒に屋上へ移動した。

「なんだよ、こんなところに連れてきて。はっ!? もしかして……カツアゲか!?」
「なぜ、私がそのようなことをしなければいけないのですか」

 やれやれとため息をこぼす。

 どうも、アレックスは粗暴というか……
 ちょっと視野が偏っている。
 もう少し、品というものを身に着けてほしい。

 まあ。
 私も令嬢になったばかりのようなものなので、あまり強くは言えないのだけど。

「アレックス……あなた、お見合いをするそうですね?」
「っ!?」

 どこでそれを!? というような顔をしてアレックスが驚いた。
 ややあって、小さく舌打ちする。

「シルフィーナのやつか」
「フィーを責めないでください。私が強引に聞き出したので」
「ったく、それが公爵令嬢のすることかよ」
「すみません。最近、アレックスの様子がおかしく、気になったもので」
「……俺、そんなに様子がおかしかったか?」
「ええ、とても」

 即答すると、アレックスは微妙な顔に。
 どうやら、様子がおかしいことを自覚していなかったようだ。

 これは重症だ。
 自分で自分の異変を察知することができない。
 こんなレベルに陥ることは、なかなかないだろう。

「なにを悩んでいるのか教えていただけませんか?」
「それは……」
「もしかしたら、解決できるかもしれません。そうでなくても、誰かに話すことで気持ちが楽になることもあります」
「……わかった」

 少しの迷いの後、アレックスはぽつりぽつりと事情と悩みを話し始めた。

 アレックスは平民で、天涯孤独の身。
 今は教会に身を寄せて、家としているが……
 父親から見合いを持ちかけられたらしい。

 アレックスの父親は、とある貴族。
 メイドに手を出して、その結果、アレックスが生まれ……
 しかし、二人はそのまま捨てられた。

 そんなアレックスに、今更、どうして見合い話を持ちかけてきたのか?
 答えは単純。
 政略結婚だ。

 前世の世界では、そんなものは時代錯誤と笑うのだけど……
 この世界では当たり前のように起きていること。

 アレックスは容姿が優れている。
 そこに目をつけた父親が見合い話をまとめて、さらなる権力を手に入れようと画策したらしい。

 当然、アレックスはそんなことは知るか! と話を蹴ろうとしたのだけど……
 父親は、代わりに教会の援助を持ちかけてきた。

 教会はたくさんの孤児を引き取っている。
 国からの補助金は出ているものの、それだけでは厳しい状態だ。
 父親はそこにつけ込み、アレックスを好き勝手にしようとしている。

「……まったく」

 話を聞いてみると、思っていた以上に厄介な状況になっていた。
 これでは、アレックスが悩むのは当然だ。

「俺は……」
「ストップ」

 アレックスがなにか言おうとするが、止める。
 そして、先に言ってやる。

「あなたはバカですか?」