「アリーシャ姉さま、大丈夫ですか?」
「はい。もう問題ありませんよ」
「本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ」
「無理をしていませんか? 我慢していませんか?」
「えっと……」

 あれから一週間。

 父さまが尽力してくれたおかげで、事件は無事に解決。
 ネコは裏組織に利用されていただけとして、執行猶予と保護観察はついてしまったものの、今までと大きく変わりのない生活に。

 私の怪我は、腕の良い治癒師に治してもらった。
 痛みも傷跡もない。

 なのだけど……

「うぅ……でもでも、やっぱり心配です。アリーシャ姉さまは、平気な顔をして無理をする方ですから」

 フィーは心配みたいで、朝からずっとおちつかない様子だ。

 うん。
 私の心配をしてくれるフィー、かわいい。
 やっぱり、彼女は天使なのだろう。
 ほら。
 目を閉じれば、妹の背中に翼が生えているのが見える。

「えっと……アリーシャ姉さま?」
「なんですか?」
「どうして、私は抱きしめられているのですか?」
「フィーが天使なので」

 しまった。
 気がついたら妹を抱きしめていた。

 でも、仕方ない。
 だって、かわいいんだもの。

「よっす」
「おはよう」

 登校途中、アレックスとジークと出会う。

 ちっ。
 私とフィーの大事な時間を邪魔するなんて。

 ついつい心の中で舌打ちをしてしまう。
 でも、表面は笑顔で。

「おはようございます、アレックス、ジークさま」
「おはよう、アレックス。ジークさま」

 四人で一緒に登校して……

「やっほー」

 少ししたところでネコが姿を見せた。
 いつもと変わらず、とても元気そうだ。
 私はうれしくなり、彼女……ではなくて、彼の元に駆け寄る。

「ネコ!」
「おはよう、アリーシャ」
「おはようございます。よかった、元気になったのですね」

 何度か顔は合わせていたのだけど……
 少し暗い顔をしていたため心配だった。

 でも、今はそんなことはない。
 とても明るい顔をしていて、前よりも元気に見える。

 それと、暗い影も消えていた。
 裏組織から抜けることができたからだろうか?

「すっかり元気になったみたいですね」
「アリーシャのおかげだよ、ありがとう」
「私はなにもしていませんが……」
「あれだけのことをしておいて、なにも、って言えるところはまあ、なんていうか……あはは、アリーシャらしいなあ」

 なぜか笑われてしまう。
 私、なにかおかしなことを言っただろうか?

「ネコさん、元気になったんですね」
「風邪を引いたんだって? 大丈夫か?」
「お見舞いに行こうと思ったのだけど、なかなかタイミングが合わず……申しわけない」

 遅れてやってきたフィー達が、笑顔であれこれと声をかける。

 フィー達は、ネコの詳しい事情は知らない。
 全部バレると、とても面倒なことになることが予想できたので、その辺りはごまかしておいた。
 真相を知っているのは、私と父さまと母さま。
 それと、一部の高官のみだ。

「ありがと、心配してくれて。でも、もう大丈夫。アリーシャのおかげで、すっかり元気になったから」
「? どうして、アリーシャ姉さまのおかげなんですか?」
「んー……とてもよくしてくれたから、かな」
「?」

 なんのことだろう?
 そんな感じで、フィーは小首を傾げた。

 不思議そうにするフィーもかわいい。
 抱きしめたい。
 あと、なでなでしたい。

「ねえ、アリーシャ」
「はい、なんですか?」

 ネコは、少しの間、じっとこちらを見つめて……
 やがて、笑顔で手を差し出してきた。

 よくわからないのだけど、その手を握る。

「私、まだなにも言ってないんだけど……それなのに握手しちゃうんだ」
「ネコの手を取らないなんてこと、ありえませんから」
「ふふ、ありがとう」

 ネコは微笑む。
 男性とは思えない柔らかい笑みだ。

「この握手は、これからも親友としてよろしく、っていうこと」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
「それと……」

 そっと、ネコは私の耳元に唇を寄せた。
 私にだけ聞こえる声でささやく。

「私、ネコのことが気に入っちゃった」
「え?」
「いつか、もっと仲良くなりたいな」
「え、えっと……」

 その声は、とても綺麗というか、胸に響くようなハスキーボイスで……
 私は、ついつい胸をドキドキさせてしまうのだった。