「あら?」

 いつものようにフィーと一緒に家を出ると、アレックスの姿があった。

 登校途中、一緒になることは多いのだけど……
 でも、家の前で待っているのは初めてだ。

「おはようございます」
「おはよう、アレックス」
「ああ」

 挨拶をすると、彼はぶっきらぼうに頷いてみせた。

 私は別にいいのだけど……
 かわいいフィーが天使の笑顔で挨拶をしたらのだから、照れるなり動揺するなりしなさいよ。
 あなた、それでもヒーローか。
 私だったら悶えるほどに喜び、今日一日の幸せを確信するのに。

 フィーが不思議そうに問いかける。

「アレックス、どうしたの?」
「あー……その、なんだ。ちょっとしたことがあって、一緒に行こうかな、って」
「ちょっとしたこと?」
「シルフィーナ達の親父さんに頼まれて……いや、なんでもない」
「?」

 詳細を説明されず、フィーは小首を傾げた。

 私も首を傾げる。
 どうやら、父さまになにか頼まれたらしいが……
 でも、アレックスは詳細を説明するつもりはないようだ。

 隠し事をする時は、だいたい、やましいことを抱えているか説明しづらい状況のニパターンだ。

 アレックスはバカがつくような正直者なので、前者はないだろう。
 そうなると後者か。

 説明しづらい状況……
 なにか不安になるようなことがあり。
 私達に配慮して、口を閉ざしている……という可能性が高そうだ。

 ただ、詳細まで想像することはできない。
 私達を不安にさせてしまうようなこと……いったい、なんだろう?
 私の破滅の未来が関わっているのかもしれないが……
 しかし、それはまだ先のはず。

 うーん?

「ほら、学院に行こうぜ。のんびりしてたら遅刻する」
「うん、そうだね。アリーシャ姉さま」
「……そうですね」

 考えても今は答えが出そうにない。
 頭の片隅に留めておくことにして、私達は学院に向かう。



――――――――――



「おはよう、アリーシャ」
「おはようございます、ネコ」

 教室に入ると、ネコが笑顔で迎えてくれた。

 挨拶を交わして自分の席へ。
 すると、ネコが後を追いかけてくる。

「ねえねえ、アリーシャ。ちょっといい?」
「はい、なんですか?」
「今日の放課後、予定はある?」
「今日ですか?」

 突然だな?
 怪訝に思いつつ、予定を思い返す。

 フィーを誘い、イチャイチャしようと思っていたのだけど……
 まだ本人に話はしていない。

「ないといえば、ないですが」
「よかった。なら、ちょっと時間をくれない? 大事な話があるんだ」
「はあ……」

 大事な話とはなんだろう?
 考えてみるものの、うまく思いつかない。

「平気?」
「はい、大丈夫ですよ」

 大事な話の内容は気になるものの、教室で問いかけるわけにはいかない。
 放課後、ちゃんと確認することにしよう。

「っと、先生が来ちゃった。また後でね」
「はい。あ、ネコ」
「うん?」
「今日のお昼、一緒に食べませんか?」
「え?」

 いつもフィーと一緒に食べているのだけど……
 今日は、アレックスとジークと一緒するらしい。

 彼らは、私のフィーを狙っているのだろうか?
 そう考えると、ムッとしてしまうものの……

 とはいえ、フィーがもしも彼らのことを気にしていたら、それを邪魔するわけにはいかない。
 非常に……ひじょうううううに不本意だけど、食事くらいなら邪魔をしてはいけない、と考えるようになった。

 それに……

「ネコと一緒にごはんを食べたいんです」
「そう、なの?」
「はい。友達ではありませんか」

 妹ばかりを優先して、友達をないがしろにしてはいけない。
 それに、ネコと一緒にいると楽しい。
 一緒にごはんを食べると、きっと笑顔で過ごすことができるはずだ。

「……」

 ネコはキョトンとして……

「うん、そうだね」

 なぜか、泣きそうな顔をするのだった。