「……思い出しました」

 ネコと過ごす前夜。
 自室で明日の予定を考えていると、ふと、乙女ゲームの内容を思い出した。

 メインヒロインと親友のイベント。
 二人は仲良く街を歩くのだけど……
 途中、ネコの悲しい寂しい過去が明らかになる。

 メインヒロインはそれを受け止めて、親友になるる。

「でも、明日は私と一緒。フィーはいない。だとしたら……明日、ネコの悲しい過去が明らかになり、しかし、受け止める人がいなくて……そのまま進んだら、バッドエンドになる?」

 よくよく考えてみると、破滅の未来があるのは私だけじゃない。
 メインヒロインにも、バッドエンドという形で破滅が訪れる可能性がある。

 フィーがバッドエンドを迎える?
 冗談じゃない。
 そんなことは断じて許せない。

 ならば、フィーとネコの親友イベントは大事だ。
 今からでもフィーと交代するべきだ。
 そしてイベントを発生させて、二人の仲を進展させるべきだ。

 ……させるべきなのだけど。

「今更、予定の変更は……」

 とても難しい。
 かといって、約束をなしにするわけにもいかない。

 なら、やるべきことは一つ。

「私が、どうにかしてネコの過去を受け止めるしか」

 そして、後でフィーにバトンタッチ。
 それが一番だろう。



――――――――――



 運命の日が訪れた。

 これからのことを考えると、私は緊張せざるをえないのだけど……
 そんなことは関係ないとばかりに、空では太陽が輝いている。
 憎らしいほどの快晴だ。

「絶対に、メインヒロインの代役をやり遂げてみせます!」

 私は決意を新たにした。

 そして、待つこと少し……
 ネコが姿を見せた。

「ごめん、待った?」

 走ってきたらしく、少し息が切れている。

 そんなネコはパンツスタイルだ。
 明るく元気な彼女にはよく似合う。

 対する私は大きめのスカート。
 シンプルな格好なのだけど、フィーからはよく似合うと言われていた。

「いいえ、大して待っていませんよ」
「ごめんね。ちょっと服に迷っちゃって」
「服に迷ったのですか?」

 デートをするわけじゃないのに、どうして?

「アリーシャに恥をかかせるわけにはいかないからね」
「え?」
「アリーシャ、すごく綺麗でしょ? その隣を歩いている子がダメダメな格好をしていたら、恥をかかせちゃうじゃない。だから、私なりにオシャレをしてきたの」
「そんなことを考えていたのですか……」

 私は、彼女が言うほど綺麗ではないし……
 恥をかかせるとか、そんなつまらないことを気にする必要はない。

 でも、そこまで考えてくれていたことは素直にうれしい。

 うん。
 ネコを助けないと、という気持ちがますます強くなってきた。
 絶対にやり遂げてみせる。

「でも、ちょっとラフすぎたかな? 学生だし、なにかの行事でもないから、こんな格好にしてみたんだけど……」
「とてもよく似合っていると思いますよ」
「そ、そうかな?」
「はい。かわいいとかっこいいが良い感じに同居していて、男性の視線を奪ってしまうのではないかと」
「も、もう。アリーシャってば、言い過ぎだよ」

 照れていた。
 こういうところはかわいい。

「今日は、なにかリクエストはありますか? 一応、私の方でコースは考えてきましたが」
「アリーシャにお任せしてもいいかな?」
「大丈夫ですが、見たいところはないのですか?」
「アリーシャにお任せした方が、きっと楽しくなると思うんだ。まあ、全部任せちゃうのは悪いと思うんだけど……」
「いえ、そのようなこと、気にしないでください」

 つまり、私のセンスなどを信頼してくれているということ。

 私達は出会って間もないのだけど……
 どうして、そこまで私のことを信じられるのだろう?

 不思議に思うのだけど、それを尋ねることはしない。

 変な答えが返ってきても困るし……
 そこまで気にするほどのことじゃないだろう。
 気にとどめておく程度でいい。

「では……」

 行きましょうか。
 そう言おうとしたところで、ふと視線を感じて振り返る。

「アリーシャ?」
「……いえ、なんでもありません」

 誰もいない。
 たぶん、気のせいなのだろう。
 それに悪意は感じられない。

 そう判断して、私はネコと一緒に歩き始めた。