「よう」
「やあ」

 朝。
 いつものようにフィーと一緒に学院に向かっていると、アレックスとジークと出会う。

「おはようございます、アレックス、ジークさま」
「おはようございます」

 私とフィーが挨拶をすると、二人も挨拶を返してくれた。
 せっかくなので、このまま一緒に学院に向かう。

「ところで、お二人はこんなところでどうされたのですか?」
「え? あー……ぐ、偶然だよ」
「そうだね、偶然だね」
「はあ、偶然ですか」

 ちょっと気になるところはあるものの……
 でも、二人がそう言うのなら、そういうことなのだろう。

「僕も聞きたいことがあるのだけど」
「はい、なんですか?」
「昨日、見知らぬ女子生徒と一緒にいるところを見たのだけど……彼女は知り合いなのかい?」
「ああ、ネコのことですか」
「猫?」
「いえ、動物の猫ではなくて。彼女、ネコという名前なのです」
「ネコさんは、アリーシャ姉さまのクラスにやってきた転入生みたいです。それで、昨日、一緒に帰って私達と友達になりました」

 フィーがそう補足してくれた。
 しっかりと説明ができるフィーは、天才かもしれない。
 さすが私の妹。

「なるほど、転入生……か」
「それがどうしたのですか?」
「……いや、なんでもないよ」

 なんでもないという感じではないのだけど……
 しかし、ジークはそれ以上を語らない。

 本人が言うように大したことないのか。
 それとも、私達に話すことができないようなことなのか。

 彼がなにを考えているか、それはわからない。



――――――――――



「おはよう、アリーシャ」
「おはようございます、ネコ」

 教室に入ると、ネコが太陽のような笑顔で迎えてくれた。
 正直、癒やされる。

 でも、妹の笑顔以外で癒やされてしまうなんて……
 姉失格では?

 違う、違うのですよ、フィー。
 私はフィーが一番。
 でも、ネコは友達なので……

「アリーシャ?」
「……いえ、なんでもありません」

 怪訝そうな視線を向けられて我に返る。

 フィーのことになると、たまに我を忘れてしまうことがあるのだけど……
 うーん。
 少し気をつけた方がいいかもしれない。

「ねえ、アリーシャ。週末の休日、時間あるかな?」
「週末ですか?」

 特に予定はない。
 フィーとイチャイチャして過ごそうと思っていたくらいだ。

「特には」
「なら、お願いがあるんだけど……この街を案内してくれないかな?」
「街を?」
「私、少し前に引っ越してきたばかりなんだ。だから、どこになにがあるのか、よくわからなくて……あと、できればアリーシャのオススメのお店とか教えてくれるとうれしいな」

 なるほど。
 そういえば、主人公の親友は別の街からやってきたという設定だった。

 確か……
 親が商売に成功して、その都合で王都に。
 お金がなくて学院に通うことができなかった親友も、ようやく登校できるように。

 そんな感じの設定だったと思う。

 そんな中、親友はメインヒロインと出会う。
 歳の差はありつつも、二人は仲良くなり……
 街の案内をしたことがきっかけとなり、親友となる。

 あれ?
 なんで私が誘われているのだろう?
 私は悪役令嬢なのだけど。

「ダメ、かな?」
「いえ、大丈夫ですよ」

 疑問はある。
 フィーとイチャイチャできないのは残念だ。

 でも、ネコのことは、どうしてか放っておけなくて……
 私は笑顔で承諾した。

「よかった! ありがとう、アリーシャ」
「いいえ。街の案内くらい、いつでも大丈夫ですよ」

 こうして、週末はネコと一緒に過ごすことに。

 この時は友達と過ごす時間を楽しみにしていたのだけど……
 その夜、とんでもないことを思い出すのだった。