私とフィーは公爵令嬢なのだけど……
 放課後の帰り道は歩きを選択することが多い。

 毎日馬車で送り迎えをしてもらっていたら、かなり目立つ。
 普通の生徒から反感を買うかもしれないし……
 なにより、そんな無駄遣いをさせるわけにはいかない。

 最初の頃は治安に対する疑問もあったため、馬車を利用していたけど、今はほぼほぼ徒歩だ。
 基本的に王都は平和で、夜ならばともかく、昼から事件が起きることはない。

 そんなわけで、私とフィーとニルヴァレンさんは、並んで帰路を歩いていた。

「えっと……ニルヴァレンさまは、新しいクラスメイトということですが……」
「うん、そうだよ。今日、転入してきたんだ」
「そうなんですね。学院には慣れましたか?」
「さすがに、それはちょっと早いかな?」
「そ、そうでした……すみません」
「ううん、気にしないで。でも、アリーシャさんのおかげで、わりと早く慣れることができそう」
「私ですか?」

 突然、私の名前が挙げられて驚いてしまう。

「さっきはありがとうね、助かっちゃった」
「アリーシャ姉さまがなにかしたんですか?」
「クラスメイトの質問攻めにあっていたんだけど、アリーシャさんに助けてもらったんだ」
「なるほど、さすがアリーシャ姉さまです!」

 特に深い考えはなかったのだけど……
 うん。
 フィーから尊敬の眼差しを向けられることは、すごくうれしい。

「質問されるのがイヤだったわけじゃないんだけど、一度にたくさんの質問が飛んできて、それがずっと続くからどうしていいかわからなくて」
「なるほど……それは大変そうですね」
「申しわけありません。クラスメイトの皆も、悪気があるわけではないのですが……」
「あ、ううん! アリーシャさんが謝ることじゃないよ。それに、質問をするっていうことは、私に興味を持ってくれている、ってことだよね。それは、素直にうれしいから」

 にっこりと笑うニルヴァレンさん。

 うーん。
 さすが、主人公の親友ポジション。
 まっすぐな性格をしていて、それと、とても元気で……うん。
 素直に好ましいと思える。

 とはいえ、フィーの親友を任せられるか、それは話が別だ。
 せっかくの機会だ。
 フィーの親友としてやっていけるか、私が見定めることにしよう。

「ところで、仮定の質問なのですが……」
「うん? なに?」
「ニルヴァレンさんの友達が危機に陥っていたとしたら、どうされますか?」
「え? どうしたの、いきなり」
「ただの日常会話です」
「日常、かなあ……? でも、友達が困っているのなら、もちろん助けるよ」

 即答だった。
 考える間もない。

 予想外の返答に、ついつい目を丸くしてしまう。

「即答なのですね」
「え? なにかおかしいかな?」

 普通は、少しためらったり迷ったりすると思う。

 友達の力になりたいと思うことは当たり前のこと。
 でも、そこに危険が伴うとしたら、迷いを抱いてしまうことも当たり前のこと。

 しかし、ニルヴァレンさんはまったく迷わない。
 そうすることが当たり前のように、即答してみせた。
 そして、彼女の様子を見る限り、それが普通だと信じている。

(さすが、主人公の親友というべきですか)

 主人公に負けず劣らず、性格が良い。

 人気投票が開催されたことがあるのだけど……
 サブキャラクターでは一位だった。
 それだけの人気があるのも納得だ。

「では、友達を助けることで、自らに大きな害を受けるとしたら?」

 でも、私はまだ納得しない。

 事は、大事な妹に関すること。
 本当に妹の親友ポジションを任せても大丈夫か?
 しっかりときちんとはっきりと見極めないといけない。

「害っていうと……痛いこととか?」
「まあ、そのような感じで」
「痛いのは困るなあ……でも、やっぱり力になりたいかな」

 今度も即答だった。

「怪我をするようなことがあっても、構わないと?」
「うん、そうかな」
「普通、イヤだと思いませんか?」
「友達が傷つく方がイヤだから」
「……」

 彼女は聖女だろうか?
 ついついそんなことを思ってしまう。

「なるほど……これならば」

 フィーの親友を任せてみてもいいかもしれない。

 なんて、上から目線のことを考えていると、

「だから、アリーシャさんが困っていたら、私は全力で力になるつもりだよ」
「どうして、私の話になるのですか?」
「え?」
「え?」

 共に小首を傾げて、

「だって、アリーシャさんは友達だから」

 ニルヴァレンさんは、さらりとそう言った。

 なるほど……なるほど?
 私はいつ、ニルヴァレンさんと友達に?

「……でも」

 一緒に帰って、お話をして。
 それはもう友達なのかもしれない。

 それに……

 私は悪役令嬢だけど、でも、彼女と友達になりたいと思う。
 そう願う。
 だから……

「はい、そうですね……ネコ」
「うん!」

 名前で呼ぶと、彼女はとてもうれしそうに笑った。
 太陽のように明るく、元気な笑顔だ。

「ふふ」

 私達を見て、フィーは幸せそうな感じで笑うのだった。