悪役令嬢の私ですが、メインヒロインの妹を溺愛します

 放課後。

「ニルヴァレンさんは……」
「好きなものは……」
「前にいたところは……」

 クラスメイト達がニルヴァレンさんのところへ集まり、あれこれと質問をぶつけている。
 転入生の宿命だ。

 ただ、ニルヴァレンさんは欠片も嫌そうな顔をしていない。
 むしろうれしそうにしていて、積極的にクラスメイト達と話をしている。

 私もニルヴァレンさんと話をしたいのだけど……
 その前に、思い出しておかないといけないことが。

「ニルヴァレンさんが登場してすぐに、なにかしらのイベントが発生したはずなのだけど……」

 どんなものだったかしら?

 初回プレイでは、華麗に彼女をスルー。
 その後のプレイでも、攻略サイトを頼りにしてのプレイだったため、印象が薄く……
 いまいち彼女についての記憶がない。

 彼女を快く思わない人がいて……
 なにかしらの嫌がらせを受けてしまう。
 そこをメインヒロインが助けたことで友情が生まれる、という展開なのだけど、詳細を覚えていない。

「まあ、いずれ思い出すかもしれませんね」

 すぐにニルヴァレンさんが追いつめられるわけではないので、そこは心配いらない。
 時間をかけて思い出していこう。

 そのためにも、まずはある程度は仲良くなっておかないと。
 彼女と親しくすることで、破滅を回避できるかもしれないので。

「クラウゼンさま」

 いざ出陣!

 というところで、クラスメイトに声をかけられた。

「はい?」
「妹さんが来ていますよ」
「フィーが!?」

 ニルヴァレンさんのことは後回し。
 なににおいても、妹が最優先されるべきだ。

 私はすぐに教室の入り口へ。
 おっかなびっくりといった様子で、教室の様子をうかがうフィーの姿が。

 たぶん、上級生の教室ということで気後れしているのだろう。
 でも、そんなところもかわいい。

「どうしたのですか、フィー」
「あ、アリーシャ姉さま」

 私を見つけると、フィーは花が咲いたような笑顔に。
 私の妹、天使。

 一目がなければ抱きしめて、頬にキスをして……
 それからもう一度抱きしめて、頬をスリスリしていたところだ。

「あの……よかったら、一緒に帰れないかと思いまして」
「これからですか?」
「はい……ダメ、でしょうか?」
「もちろん、大丈夫ですよ」

 即答だった。

 ニルヴァレンさん?
 いいえ。
 それよりも妹と一緒に帰ることの方が大事。

「少し待っていてくださいね。鞄を取ってきます」
「はい」

 鞄を取りに、自分の席へ戻る。
 その途中……

「それで、ニルヴァレンさんは……」
「えっと……」

 まだ質問は続いていた。
 さすがのニルヴァレンさんも疲れてきたらしく、ちょっと笑顔がぎこちない。

「……」

 鞄を手に取る。
 それから、フィーのところではなくて、ニルヴァレンさんのところへ。

「みなさん、すみません」
「え?」

 私が声をかけると、ニルヴァレンさんを含めて、クラスメイト達が驚きの顔に。

「ニルヴァレンさんのことが気になるのはわかり、申しわけないのですが……この後、一緒に帰る約束をしていまして」
「へ?」

 ニルヴァレンさんが目を丸くするものの、気にしない。

「お話は、また明日でも問題ないですし……妹を待たせているので、そろそろいいでしょうか?」
「そうなんですね。ごめんなさい、クラウゼンさん」
「またお話しましょうね」

 クラスメイト達は素直に引いてくれた。

「では、行きましょうか?」
「え?」

 未だぽかんとするニルヴァレンさんの手を引いて、フィーのところへ。

「あ、アリーシャ姉さま! と……どちらさま、でしょうか?」
「ふふ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。こちらは、ニルヴァレンさん。私の新しいクラスメイトです」
「そうなんですね。あ、私、アリーシャ姉さまの妹の、シルフィーナ・クラウゼンです。よろしくおねがいします」
「えっと……うん! 私は、ネコ・ニルヴァレン。シルフィーナちゃんも……それに、アリーシャさんもよろしくね!」

 状況を理解して、気持ちを切り替えることができたらしく、ニルヴァレンさんはにっこりと笑いつつ自己紹介をした。