フィーの誕生日パーティーは、大成功で終わり……
みんな、最後まで笑顔だった。
フィーが喜んでくれて、アレックスとジークも喜んでくれて、父さまと母さまも喜んでくれた。
一連の流れを企画した身としては、うれしい限りだ。
今回のことで、アレックスとジークが、私に対する見方、印象を変えてくれたらラッキーなのだけど……うーん、どうだろうか?
二人共、満足していたような気はするが、フィーに対する好感度が上昇しただけで、私に対する好感度は変わっていない気がする。
というのも、誕生日パーティーの時、二人は私のドレス姿を見てなにも褒めてくれなかった。
フィーに対しては、綺麗だのかわいいだの言っていたのに……
私を見ると、途端に気まずそうな顔になり、目をそらしていた。
見るのもイヤなのだろうか?
うーん……それなりに順調に進んでいると思っていただけに、二人の反応は残念だ。
「まあ、それはそれで構いませんけどね」
アレックスとジークのことは気になるものの……
でも、今日はなによりも、フィーのことを一番に考えないといけない。
そして、誕生日パーティーは成功した。
フィーは本物の笑顔を浮かべていた。
それで十分だ。
「……そろそろ寝ましょうか」
ペンを置いて、日記帳を閉じる。
フィーを真似て日記を書き始めたのだけど、なかなか楽しい。
一日の出来事を思い出して、色々なことを考えることができる。
それが楽しくもあるし……
おそらく、後々で見返した時に、重要な発見をしたりもするのだろう。
これからも、毎日、日記をつけていこうと思う。
コンコン。
「はい?」
扉がノックされる音が響いて、答える。
こんな時間に誰だろう?
「あの……アリーシャ姉さま、まだ起きていますか? シルフィーナです」
「フィー? どうぞ」
「失礼します」
恐る恐るという感じで、フィーが部屋に入ってきた。
かわいいフリルのついた、ピンク色の寝間着姿だ。
「ごほっ!?」
「アリーシャ姉さま? ど、どうしたんですか?」
「……フィーは、私を萌え死させるつもり」
「もえ……?」
「いえ、なんでもありません。それよりも、どうしたのですか?」
寝間着に気を取られて気づかなかったけれど、なぜか枕を手にしていた。
ふと、その理由に思い至る。
これはもしかして、もしかすると……?
「あの……子供っぽい、って笑われるかもしれないんですけど、でも、その……一緒に寝てもいいですか?」
「もちろん!!!」
二つ返事で了承する。
かわいい妹と一緒に寝られるなんて、最高か!
「えへへ……よかったです、断られなくて」
「フィーの頼みを断るなんて、ありえませんよ」
「アリーシャ姉さま、優しいです」
「それじゃあ、寝ましょうか」
「はいっ」
ベッドに移動して、フィーは自分の枕を横に並べた。
まずは私がベッドに横になり、続けてフィーが。
おじゃまします……なんて、少し照れた様子で言う姿は、たまらない破壊力だ。
くっ……この世界にスマホがないことが悔やまれる。
「……アリーシャ姉さま、まだ起きていますか?」
「横になったばかりですよ。さすがに、まだ起きています」
苦笑しつつ、フィーの言葉を待つ。
ただ単に、一緒に寝たいだけではなくて、なにかしら話したいことがあるのだろう。
「ありがとうございます」
「誕生日パーティーのことですか? 妹のために、姉として当たり前のことをしただけですよ」
「それもあるんですけど、でも、それだけじゃなくて……」
フィーが恥ずかしそうにしつつ、言葉を続ける。
「……私の姉さんになってくれて、ありがとうございます」
「……フィー……」
「アリーシャ姉さまのおかげで、私、自分を好きになることができました。シルフィーナ・クラウゼンを嫌いにならないですみました。だから……ありがとうございます。全部、全部、アリーシャ姉さまのおかげです」
そっと、フィーが私の手を握ってきた。
おっかなびっくりではあるのだけど……
でも、一度握った後は、離したくないというかのように強い。
「私は、大したことはしていませんよ」
「でも……」
「フィーが自分を好きになることができたのは、フィー自身の力によるものですよ」
「そんなことありません。アリーシャ姉さまがいなかったら、私は……今も、自分を好きになれなかったと思います。ただ流されるままに、なにも考えずに生きていたと思います。アリーシャ姉さまが、私のことを、ただの人形から血の通う人にしてくれたんです」
フィーは、私の手を両手で握る。
そして顔を近づけて、キラキラとした目をこちらに向けた。
「だから、ありがとうございます」
「私はなにもしていない、と言っても、あなたは納得しないのでしょうね」
「はい。私のこの気持ち、想いは、アリーシャ姉さまでも覆すことはできませんから」
「なら……一応、否定するのはやめておきます」
「……」
「……」
互いの顔を見て、
「ふふっ」
「くすっ」
共に小さく笑う。
フィーの浮かべている笑顔は、心からのものだ。
以前のように、曇っているようなことはない。
そんな笑顔を生み出すことに、私が少しでも関わることができたのなら、それはとても誇りに思う。
「アリーシャ姉さま」
「はい、なんですか?」
「あの……これからも、ずっと一緒にいてくれますか?」
「もちろんです」
にっこりと笑いながら答える。
「フィーがイヤと言っても、私は一緒にいますからね。ずっとずっと、傍にいますからね。だって……私達は、姉妹なのですから」
「アリーシャ姉さま……はいっ」
フィーは、花が咲いたような、明るく輝いた笑みを浮かべて、
「アリーシャ姉さま、大好きです」
とびきりの笑顔と共に、そう言うのだった。
朝。
いつものように学舎に向かうのだけど……
今日は馬車ではなくて徒歩だ。
たまには歩いて行きたいというフィーの要望を叶えたことになる。
「えへへ」
フィーは笑顔だ。
うれしそうに私と手を繋いで、ぴたりと寄り添っている。
「フィー、そんなにくっつかれると歩きにくいのですが」
「ダメ……ですか?」
「いいえ! まさか!」
むしろ大歓迎。
手を繋ぐだけじゃなくて、腕を組みたい。
というか、いっそのことフィーをお姫さま抱っこしたい。
とはいえ、さすがにそれは無理。
そこまでの力はないので諦めるしかない。
まあ、こうして手を繋いでいるだけでも幸せなのだけど。
「私もフィーと手を繋いでいたいと思いますよ」
「えへへ、アリーシャ姉さま」
「どうしたんですか? 今日はやけに甘えん坊さんですね」
布団に潜ってきて、手を繋いで。
昨日の誕生日パーティー以来、フィーは少し変わったような気がする。
具体的にどこが、と問われると言葉に迷うのだけど……
少し明るくなったような気がした。
「アリーシャ姉さま」
「はい、なんですか?」
「あの……今日のお昼、一緒に食べませんか?」
「……」
思わぬ展開に、ついつい目を丸くしてしまう。
フィーに昼食に誘われた。
まさかの出来事だ。
なにせ、いつも私の方から誘ってばかりで、フィーから誘われたことは一度もない。
もしかして私避けられている? なんて、夜も眠れないほどに悩んだこともある。
それなのに、ついに誘ってもらえるなんて……
「……うぅ」
「え? え? あ、アリーシャ姉さま!? ど、どうされたんですか!?」
突然、涙ぐむ私を見て、フィーがあわあわと慌てる。
そんなところもかわいい。
「いえ……すみません。フィーから誘ってくれたことがうれしくて、つい」「
「お、大げさです……」
「そのようなことはありません。姉というものは、妹からの言葉をいつでも待っていて、期待しているものなのですよ?」
自分で言っておいてなんだけど、そんな話、今まで聞いたことがない。
今、この場で思いついたことだ。
でも、フィーのようなすごくかわいい妹がいるのなら、あながち間違いでもないだろう。
一緒にごはんを、なんて誘われたら、うれしくて感涙してしまうのが普通だ。
普通ですよね?
「あと、その……アレックスとジークさまもお誘いしたくて」
「……」
舌打ちしてしまいそうになるのだけど、なんとか我慢した。
「アリーシャ姉さま?」
「……いえ、とても良いアイディアだと思います。やはり、ごはんはみんなで食べる方がおいしく感じられますからね」
フィーと二人きり、フィーと二人きり、フィーと二人きり……
心の中で涙を流しつつ、しかし、表では笑顔の仮面をつける。
正直なところ、ものすごく残念なのだけど……
でも、フィーがみんな一緒を望んでいるのだから、それをよしとしておかないと。
それに……
最近は色々とあって忘れがちだったものの、私は悪役令嬢だ。
破滅の未来を避けるために、ヒーローである彼らと仲良くしておいて損はないだろう。
でも、フィーはあげません!
いくらヒーローであろうと、フィーと付き合いたいと言うのならば……ふっ、ふふふ。
「あ、アリーシャ姉さま? なにか怖いです……」
「はっ……す、すみません。なんでもありませんよ?」
「はあ……」
いけない、いけない。
フィーに彼氏ができるという最悪の未来を想像してしまい、ちょっと高ぶってしまったみたいだ。
一応、私は公爵令嬢。
それにふさわしいように、常に落ち着いていないと。
「ところで……」
「はい、なんですか?」
「フィーは、少し変わりましたね」
「え?」
「とても良い顔で笑うようになりました」
「そ、そうですか……? 私は、その……よくわからないです」
自分の頬をむにむにと触る。
なにその仕草。
かわいすぎる。
この世界にカメラがないことが悔やまれる。
「でも……それは、アリーシャ姉さまのおかげだと思います」
「私ですか?」
「はい。アリーシャ姉さまがいてくれたからこそ、私、うまく笑えるようになったんだと思います」
「私はなにもしていませんが……」
「え?」
「え?」
フィーが、それはありえない、というような顔をするのだけど……
でも事実、私はなにもしていない。
そもそも、私は悪役令嬢だ。
なにかできるわけがないし……
メインヒロインのフィーの力になれるとしたら、ヒーローであるアレックスやジークだろう。
まあ、それはそれで癪なので。
日頃、フィーをかまってかまい倒しているのだけど。
「ふふ」
ややあって、フィーがおかしいと言うかのようにくすりと笑う。
「アリーシャ姉さまは、いつでもどこでもアリーシャ姉さまらしいのですね」
「どういう意味ですか?」
「なんでもありません」
「?」
フィーの言葉の意味がわからない。
わからないのだけど……
フィーがうれしそうにしているので、なんでもいいか、と思ってしまう私だった。
かわいい妹が笑顔なら私も幸せなのだ。
数日後。
登校した後。
私はぼんやりと窓の外を眺めていた。
あいにくの曇り空で雨が降っている。
この世界にも四季はあり、梅雨がある。
最近になって梅雨入りしたらしく、残念な天気が続いている。
「このところ雨ばかりですね……」
雨は嫌いだ。
早く晴れてほしいのだけど……
梅雨となれば、そうもいかないか。
「クラウゼンさま」
クラスメイトに声をかけられ、振り返る。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「お聞きになりましたか?」
「なんのことでしょう?」
「実は、転入生がやってくるらしいですわ」
「転入生? このような時期に?」
あと一ヶ月ほどで学園は夏季休暇に入る。
やや中途半端な時期だ。
「詳しくは知らないのですが、そのような噂を聞きまして」
「私達のクラスに?」
「はい、そのようですわ。女性らしいので、友達になれるかもしれませんわ」
「なるほど」
「あ……きっと、この後のホームルームで紹介されると思いますわ」
ホームルームの時間が近づいてきたため、クラスメイトは自分の席に戻った。
「転校生……か」
自分にしか聞こえない声でつぶやいた。
この時期に転校なので、もしかしたら、なにか事情があるのかもしれない。
うまく学園に馴染めるように、できることがあればしたいと思うのだけど……
はて?
なにか引っかかる。
魚の小骨が喉に刺さったような感じで、もどかしい。
なにかあったはずなのだけど、思い出すことができない。
結局、そのままホームルームの時間を迎えてしまう。
「今日は、みなさんに新しい仲間を紹介します」
お決まりの文句と共に、転校生が紹介される。
先生の合図で教室に入ってきたのは、黒髪のショートカットの女の子だった。
どことなく幼さが残る顔。
ただ、目は大きく、元気な印象を受ける。
幼さが見えるものの、あちらこちらを走り回る元気な子供という感じだ。
制服は私達と同じもの。
ただ、急ごしらえなのか、サイズが少し合っていない。
彼女、わがままな体をしているみたいで……
やや窮屈そうだ。
まあ、調整はできるだろうから、それほど大きな問題ではないだろう。
転校生は壇上に立ち、にっこりと元気な笑みを浮かべる。
「はじめまして! 私は、ネコ・ニルヴァレン、っていいます。田舎の方で暮らしていたんだけど、ちょっと事情があって王都に移住することになって……ぶっちゃけると田舎者だから、こっちのことを色々と教えてくれるとうれしいです。よろしくお願いします!」
元気よく言い、お辞儀をする。
とても気持ちのいい人だ。
クラスメイト達も同じことを思ったのか、拍手で迎える。
それにしても……
ネコ、なんて独特な名前だ。
そのせいか、どこかで聞き覚えがある。
そんな知り合い、いないはずなのだけど……
でも、勘違いではないと断言できるくらい、強い印象を抱いている。
どこで聞いたのだろうか?
あれは、確か……
「……っ!?」
答えに辿り着いて、思わず声をあげてしまいそうになる。
なんとか我慢できた私は、素直に偉いと思う。
そう……思い出した。
彼女は、乙女ゲームのサブキャラクターだ。
いわゆる、主人公の友達ポジション。
ふとしたことからメインヒロインと出会い、友情を育んでいく。
そして、歳は違うものの唯一無二の親友になる。
物語後半になるにつれて、メインヒロインには数々の試練が降りかかる。
それをヒーローと一緒に乗り越えていくのだけど……
ここで、ネコ・ニルヴァレンの存在がとても大事なものとなる。
彼女と友情を育んでいるかどうかで、ハッピーエンドかバッドエンドか、道が分かれるのだ。
そんなことを知らなかった私は、初回プレイ、ヒーローばかりと仲良くなっていたため、悲惨なバッドエンドを迎えたものだ。
「まさか、彼女も登場するなんて」
ここ最近は、フィーの誕生日の準備に夢中になっていたため、破滅を回避することをすっかり忘れていた。
でも、それは仕方ない。
あんなにかわいい妹がいれば、そっちに夢中になるのは当たり前のこと。
よって、私は悪くない。
とはいえ、ネコ・ニルヴァレンの登場で、ここが乙女ゲームの世界であることを思い出した。
今のところ、順調に進んでいるような気はするものの……
ありがちな展開だと、世界の修正力とやらが働いて、最終的に私は悪役令嬢として断罪されてしまう。
そのことを考えると、順調だからといって油断はできない。
このタイミングでネコ・ニルヴァレンが出てきたということは……
たぶん、なにかしらの関連イベントが発生するはず。
それをうまく乗り越えることで、破滅を回避してみよう。
放課後。
「ニルヴァレンさんは……」
「好きなものは……」
「前にいたところは……」
クラスメイト達がニルヴァレンさんのところへ集まり、あれこれと質問をぶつけている。
転入生の宿命だ。
ただ、ニルヴァレンさんは欠片も嫌そうな顔をしていない。
むしろうれしそうにしていて、積極的にクラスメイト達と話をしている。
私もニルヴァレンさんと話をしたいのだけど……
その前に、思い出しておかないといけないことが。
「ニルヴァレンさんが登場してすぐに、なにかしらのイベントが発生したはずなのだけど……」
どんなものだったかしら?
初回プレイでは、華麗に彼女をスルー。
その後のプレイでも、攻略サイトを頼りにしてのプレイだったため、印象が薄く……
いまいち彼女についての記憶がない。
彼女を快く思わない人がいて……
なにかしらの嫌がらせを受けてしまう。
そこをメインヒロインが助けたことで友情が生まれる、という展開なのだけど、詳細を覚えていない。
「まあ、いずれ思い出すかもしれませんね」
すぐにニルヴァレンさんが追いつめられるわけではないので、そこは心配いらない。
時間をかけて思い出していこう。
そのためにも、まずはある程度は仲良くなっておかないと。
彼女と親しくすることで、破滅を回避できるかもしれないので。
「クラウゼンさま」
いざ出陣!
というところで、クラスメイトに声をかけられた。
「はい?」
「妹さんが来ていますよ」
「フィーが!?」
ニルヴァレンさんのことは後回し。
なににおいても、妹が最優先されるべきだ。
私はすぐに教室の入り口へ。
おっかなびっくりといった様子で、教室の様子をうかがうフィーの姿が。
たぶん、上級生の教室ということで気後れしているのだろう。
でも、そんなところもかわいい。
「どうしたのですか、フィー」
「あ、アリーシャ姉さま」
私を見つけると、フィーは花が咲いたような笑顔に。
私の妹、天使。
一目がなければ抱きしめて、頬にキスをして……
それからもう一度抱きしめて、頬をスリスリしていたところだ。
「あの……よかったら、一緒に帰れないかと思いまして」
「これからですか?」
「はい……ダメ、でしょうか?」
「もちろん、大丈夫ですよ」
即答だった。
ニルヴァレンさん?
いいえ。
それよりも妹と一緒に帰ることの方が大事。
「少し待っていてくださいね。鞄を取ってきます」
「はい」
鞄を取りに、自分の席へ戻る。
その途中……
「それで、ニルヴァレンさんは……」
「えっと……」
まだ質問は続いていた。
さすがのニルヴァレンさんも疲れてきたらしく、ちょっと笑顔がぎこちない。
「……」
鞄を手に取る。
それから、フィーのところではなくて、ニルヴァレンさんのところへ。
「みなさん、すみません」
「え?」
私が声をかけると、ニルヴァレンさんを含めて、クラスメイト達が驚きの顔に。
「ニルヴァレンさんのことが気になるのはわかり、申しわけないのですが……この後、一緒に帰る約束をしていまして」
「へ?」
ニルヴァレンさんが目を丸くするものの、気にしない。
「お話は、また明日でも問題ないですし……妹を待たせているので、そろそろいいでしょうか?」
「そうなんですね。ごめんなさい、クラウゼンさん」
「またお話しましょうね」
クラスメイト達は素直に引いてくれた。
「では、行きましょうか?」
「え?」
未だぽかんとするニルヴァレンさんの手を引いて、フィーのところへ。
「あ、アリーシャ姉さま! と……どちらさま、でしょうか?」
「ふふ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。こちらは、ニルヴァレンさん。私の新しいクラスメイトです」
「そうなんですね。あ、私、アリーシャ姉さまの妹の、シルフィーナ・クラウゼンです。よろしくおねがいします」
「えっと……うん! 私は、ネコ・ニルヴァレン。シルフィーナちゃんも……それに、アリーシャさんもよろしくね!」
状況を理解して、気持ちを切り替えることができたらしく、ニルヴァレンさんはにっこりと笑いつつ自己紹介をした。
私とフィーは公爵令嬢なのだけど……
放課後の帰り道は歩きを選択することが多い。
毎日馬車で送り迎えをしてもらっていたら、かなり目立つ。
普通の生徒から反感を買うかもしれないし……
なにより、そんな無駄遣いをさせるわけにはいかない。
最初の頃は治安に対する疑問もあったため、馬車を利用していたけど、今はほぼほぼ徒歩だ。
基本的に王都は平和で、夜ならばともかく、昼から事件が起きることはない。
そんなわけで、私とフィーとニルヴァレンさんは、並んで帰路を歩いていた。
「えっと……ニルヴァレンさまは、新しいクラスメイトということですが……」
「うん、そうだよ。今日、転入してきたんだ」
「そうなんですね。学院には慣れましたか?」
「さすがに、それはちょっと早いかな?」
「そ、そうでした……すみません」
「ううん、気にしないで。でも、アリーシャさんのおかげで、わりと早く慣れることができそう」
「私ですか?」
突然、私の名前が挙げられて驚いてしまう。
「さっきはありがとうね、助かっちゃった」
「アリーシャ姉さまがなにかしたんですか?」
「クラスメイトの質問攻めにあっていたんだけど、アリーシャさんに助けてもらったんだ」
「なるほど、さすがアリーシャ姉さまです!」
特に深い考えはなかったのだけど……
うん。
フィーから尊敬の眼差しを向けられることは、すごくうれしい。
「質問されるのがイヤだったわけじゃないんだけど、一度にたくさんの質問が飛んできて、それがずっと続くからどうしていいかわからなくて」
「なるほど……それは大変そうですね」
「申しわけありません。クラスメイトの皆も、悪気があるわけではないのですが……」
「あ、ううん! アリーシャさんが謝ることじゃないよ。それに、質問をするっていうことは、私に興味を持ってくれている、ってことだよね。それは、素直にうれしいから」
にっこりと笑うニルヴァレンさん。
うーん。
さすが、主人公の親友ポジション。
まっすぐな性格をしていて、それと、とても元気で……うん。
素直に好ましいと思える。
とはいえ、フィーの親友を任せられるか、それは話が別だ。
せっかくの機会だ。
フィーの親友としてやっていけるか、私が見定めることにしよう。
「ところで、仮定の質問なのですが……」
「うん? なに?」
「ニルヴァレンさんの友達が危機に陥っていたとしたら、どうされますか?」
「え? どうしたの、いきなり」
「ただの日常会話です」
「日常、かなあ……? でも、友達が困っているのなら、もちろん助けるよ」
即答だった。
考える間もない。
予想外の返答に、ついつい目を丸くしてしまう。
「即答なのですね」
「え? なにかおかしいかな?」
普通は、少しためらったり迷ったりすると思う。
友達の力になりたいと思うことは当たり前のこと。
でも、そこに危険が伴うとしたら、迷いを抱いてしまうことも当たり前のこと。
しかし、ニルヴァレンさんはまったく迷わない。
そうすることが当たり前のように、即答してみせた。
そして、彼女の様子を見る限り、それが普通だと信じている。
(さすが、主人公の親友というべきですか)
主人公に負けず劣らず、性格が良い。
人気投票が開催されたことがあるのだけど……
サブキャラクターでは一位だった。
それだけの人気があるのも納得だ。
「では、友達を助けることで、自らに大きな害を受けるとしたら?」
でも、私はまだ納得しない。
事は、大事な妹に関すること。
本当に妹の親友ポジションを任せても大丈夫か?
しっかりときちんとはっきりと見極めないといけない。
「害っていうと……痛いこととか?」
「まあ、そのような感じで」
「痛いのは困るなあ……でも、やっぱり力になりたいかな」
今度も即答だった。
「怪我をするようなことがあっても、構わないと?」
「うん、そうかな」
「普通、イヤだと思いませんか?」
「友達が傷つく方がイヤだから」
「……」
彼女は聖女だろうか?
ついついそんなことを思ってしまう。
「なるほど……これならば」
フィーの親友を任せてみてもいいかもしれない。
なんて、上から目線のことを考えていると、
「だから、アリーシャさんが困っていたら、私は全力で力になるつもりだよ」
「どうして、私の話になるのですか?」
「え?」
「え?」
共に小首を傾げて、
「だって、アリーシャさんは友達だから」
ニルヴァレンさんは、さらりとそう言った。
なるほど……なるほど?
私はいつ、ニルヴァレンさんと友達に?
「……でも」
一緒に帰って、お話をして。
それはもう友達なのかもしれない。
それに……
私は悪役令嬢だけど、でも、彼女と友達になりたいと思う。
そう願う。
だから……
「はい、そうですね……ネコ」
「うん!」
名前で呼ぶと、彼女はとてもうれしそうに笑った。
太陽のように明るく、元気な笑顔だ。
「ふふ」
私達を見て、フィーは幸せそうな感じで笑うのだった。
「よう」
「やあ」
朝。
いつものようにフィーと一緒に学院に向かっていると、アレックスとジークと出会う。
「おはようございます、アレックス、ジークさま」
「おはようございます」
私とフィーが挨拶をすると、二人も挨拶を返してくれた。
せっかくなので、このまま一緒に学院に向かう。
「ところで、お二人はこんなところでどうされたのですか?」
「え? あー……ぐ、偶然だよ」
「そうだね、偶然だね」
「はあ、偶然ですか」
ちょっと気になるところはあるものの……
でも、二人がそう言うのなら、そういうことなのだろう。
「僕も聞きたいことがあるのだけど」
「はい、なんですか?」
「昨日、見知らぬ女子生徒と一緒にいるところを見たのだけど……彼女は知り合いなのかい?」
「ああ、ネコのことですか」
「猫?」
「いえ、動物の猫ではなくて。彼女、ネコという名前なのです」
「ネコさんは、アリーシャ姉さまのクラスにやってきた転入生みたいです。それで、昨日、一緒に帰って私達と友達になりました」
フィーがそう補足してくれた。
しっかりと説明ができるフィーは、天才かもしれない。
さすが私の妹。
「なるほど、転入生……か」
「それがどうしたのですか?」
「……いや、なんでもないよ」
なんでもないという感じではないのだけど……
しかし、ジークはそれ以上を語らない。
本人が言うように大したことないのか。
それとも、私達に話すことができないようなことなのか。
彼がなにを考えているか、それはわからない。
――――――――――
「おはよう、アリーシャ」
「おはようございます、ネコ」
教室に入ると、ネコが太陽のような笑顔で迎えてくれた。
正直、癒やされる。
でも、妹の笑顔以外で癒やされてしまうなんて……
姉失格では?
違う、違うのですよ、フィー。
私はフィーが一番。
でも、ネコは友達なので……
「アリーシャ?」
「……いえ、なんでもありません」
怪訝そうな視線を向けられて我に返る。
フィーのことになると、たまに我を忘れてしまうことがあるのだけど……
うーん。
少し気をつけた方がいいかもしれない。
「ねえ、アリーシャ。週末の休日、時間あるかな?」
「週末ですか?」
特に予定はない。
フィーとイチャイチャして過ごそうと思っていたくらいだ。
「特には」
「なら、お願いがあるんだけど……この街を案内してくれないかな?」
「街を?」
「私、少し前に引っ越してきたばかりなんだ。だから、どこになにがあるのか、よくわからなくて……あと、できればアリーシャのオススメのお店とか教えてくれるとうれしいな」
なるほど。
そういえば、主人公の親友は別の街からやってきたという設定だった。
確か……
親が商売に成功して、その都合で王都に。
お金がなくて学院に通うことができなかった親友も、ようやく登校できるように。
そんな感じの設定だったと思う。
そんな中、親友はメインヒロインと出会う。
歳の差はありつつも、二人は仲良くなり……
街の案内をしたことがきっかけとなり、親友となる。
あれ?
なんで私が誘われているのだろう?
私は悪役令嬢なのだけど。
「ダメ、かな?」
「いえ、大丈夫ですよ」
疑問はある。
フィーとイチャイチャできないのは残念だ。
でも、ネコのことは、どうしてか放っておけなくて……
私は笑顔で承諾した。
「よかった! ありがとう、アリーシャ」
「いいえ。街の案内くらい、いつでも大丈夫ですよ」
こうして、週末はネコと一緒に過ごすことに。
この時は友達と過ごす時間を楽しみにしていたのだけど……
その夜、とんでもないことを思い出すのだった。
「……思い出しました」
ネコと過ごす前夜。
自室で明日の予定を考えていると、ふと、乙女ゲームの内容を思い出した。
メインヒロインと親友のイベント。
二人は仲良く街を歩くのだけど……
途中、ネコの悲しい寂しい過去が明らかになる。
メインヒロインはそれを受け止めて、親友になるる。
「でも、明日は私と一緒。フィーはいない。だとしたら……明日、ネコの悲しい過去が明らかになり、しかし、受け止める人がいなくて……そのまま進んだら、バッドエンドになる?」
よくよく考えてみると、破滅の未来があるのは私だけじゃない。
メインヒロインにも、バッドエンドという形で破滅が訪れる可能性がある。
フィーがバッドエンドを迎える?
冗談じゃない。
そんなことは断じて許せない。
ならば、フィーとネコの親友イベントは大事だ。
今からでもフィーと交代するべきだ。
そしてイベントを発生させて、二人の仲を進展させるべきだ。
……させるべきなのだけど。
「今更、予定の変更は……」
とても難しい。
かといって、約束をなしにするわけにもいかない。
なら、やるべきことは一つ。
「私が、どうにかしてネコの過去を受け止めるしか」
そして、後でフィーにバトンタッチ。
それが一番だろう。
――――――――――
運命の日が訪れた。
これからのことを考えると、私は緊張せざるをえないのだけど……
そんなことは関係ないとばかりに、空では太陽が輝いている。
憎らしいほどの快晴だ。
「絶対に、メインヒロインの代役をやり遂げてみせます!」
私は決意を新たにした。
そして、待つこと少し……
ネコが姿を見せた。
「ごめん、待った?」
走ってきたらしく、少し息が切れている。
そんなネコはパンツスタイルだ。
明るく元気な彼女にはよく似合う。
対する私は大きめのスカート。
シンプルな格好なのだけど、フィーからはよく似合うと言われていた。
「いいえ、大して待っていませんよ」
「ごめんね。ちょっと服に迷っちゃって」
「服に迷ったのですか?」
デートをするわけじゃないのに、どうして?
「アリーシャに恥をかかせるわけにはいかないからね」
「え?」
「アリーシャ、すごく綺麗でしょ? その隣を歩いている子がダメダメな格好をしていたら、恥をかかせちゃうじゃない。だから、私なりにオシャレをしてきたの」
「そんなことを考えていたのですか……」
私は、彼女が言うほど綺麗ではないし……
恥をかかせるとか、そんなつまらないことを気にする必要はない。
でも、そこまで考えてくれていたことは素直にうれしい。
うん。
ネコを助けないと、という気持ちがますます強くなってきた。
絶対にやり遂げてみせる。
「でも、ちょっとラフすぎたかな? 学生だし、なにかの行事でもないから、こんな格好にしてみたんだけど……」
「とてもよく似合っていると思いますよ」
「そ、そうかな?」
「はい。かわいいとかっこいいが良い感じに同居していて、男性の視線を奪ってしまうのではないかと」
「も、もう。アリーシャってば、言い過ぎだよ」
照れていた。
こういうところはかわいい。
「今日は、なにかリクエストはありますか? 一応、私の方でコースは考えてきましたが」
「アリーシャにお任せしてもいいかな?」
「大丈夫ですが、見たいところはないのですか?」
「アリーシャにお任せした方が、きっと楽しくなると思うんだ。まあ、全部任せちゃうのは悪いと思うんだけど……」
「いえ、そのようなこと、気にしないでください」
つまり、私のセンスなどを信頼してくれているということ。
私達は出会って間もないのだけど……
どうして、そこまで私のことを信じられるのだろう?
不思議に思うのだけど、それを尋ねることはしない。
変な答えが返ってきても困るし……
そこまで気にするほどのことじゃないだろう。
気にとどめておく程度でいい。
「では……」
行きましょうか。
そう言おうとしたところで、ふと視線を感じて振り返る。
「アリーシャ?」
「……いえ、なんでもありません」
誰もいない。
たぶん、気のせいなのだろう。
それに悪意は感じられない。
そう判断して、私はネコと一緒に歩き始めた。
アリーシャとネコが肩を並べて歩く。
その後方に、彼女達をそっと監視する影が三つあった。
「動き出したな」
「どうやら、情報通りに街の案内をするみたいだね」
アレックスとジークだ。
建物の影に隠れて、そっと顔を出して様子を窺っている。
そして、もう一人。
「……こんなこと、いいかな……?」
シルフィーナだった。
どこか難しい顔をして、二人の様子を見ている。
「なんだよ、シルフィーナは気にならないのか」
「アリーシャ姉さまは、ネコさんに街の案内をするだけなので……」
「それだけで終わらないかもしれないだろ」
「そうだね」
意見を対立させることが多いアレックスとジークだけど、この日はピタリと考えを一致させていた。
「街を案内するといっても、言い換えれば、遊ぶのとなにも変わらないからね」
「それなのに、わざわざ二人だけで向かう。気になるだろ?」
「それは……」
シルフィーナは、少し言葉に詰まってしまう。
街を案内すると聞いていた。
ただ、自分は誘われなかった。
もしかして、なにか他の目的があるのでは?
もしかして、ネコと二人きりになりたいという、特別な感情があるのでは?
だとしたら自分は……
そんなことを思ったシルフィーナは、二人の後をつけてみよう、というアレックスとジークの言葉に逆らえず、同行することにしてしまった。
実際のところ……
アリーシャがシルフィーナを誘わなかったのは、危険に巻き込むかもしれないからだ。
それ一択であり、他の理由は欠片もない。
ただ、それを知らないシルフィーナはモヤモヤしてしまう。
まだまだ自分だけの姉でいてほしいと、わがままを考えてしまう。
「……本当は、気になります」
「だろ?」
「なら、後をつけるしかないね」
三人の間で、妙な方向に利害が一致した。
「ところで……」
シルフィーナは不思議に思ったことを、そのまま口にする。
「二人もアリーシャ姉さまのことを気にしているんですか?」
「「うっ」」
アレックスとジークはぴたりと足を止めた。
そして、顔を赤くする。
「それは……」
「なんていうか……」
沈黙。
ややあって、二人は困り顔で言う。
「正直、俺もよくわからないんだよ。ただ、なんか気になるっていうか、アリーシャのことをもっと知りたいというか……」
「そう、だね。僕も同じような気持ちだ。とにかく、彼女のことを今以上に知りたくなるんだ」
よくわからないのだけど、アリーシャのことが気になる。
声を聞きたいと思うし、笑顔を見たい。
隣にいて、たくさんの時間を過ごしたい。
そうした感情が積み重なり……
とある想いに変化しようとしている。
それを自覚していないわけではない。
そこまで鈍くはない。
ただ、これが本物なのかどうか。
それを確かめたい。
だから、今以上にアリーシャと接したい。
それが、アレックスとジークが胸に抱えている想いだ。
「アレックスもジークさまも、私と同じなんですね」
そんな二人の想いに気づかないシルフィーナは、にっこりと笑う。
ただ単に、ラブではなくてライクという形で、アリーシャのことが好きだと思っているのだろう。
絶妙なすれ違いだった。
「アリーシャ姉さまの後をつけるのは、なんだか悪いことをしているみたいで気が引けるんですけど……」
でも、気になる。
だから、ついつい後をつけてしまう。
ごめんなさい、と心の中で謝罪しつつ……
行動をやめられない。
「アレックス、ジークさま。がんばりましょう」
「ああ」
「うん」
「でも……ちょっとドキドキしますね」
いたずらっぽい顔で笑い、シルフィーナは舌をぺろっと出すのだった。
その仕草はとても愛らしい。
アリーシャがこの場にいたら悶絶していただろう。
「……」
ふと足を止めて、後ろを見る。
なにもない。
「どうしたの、アリーシャ」
「いえ……なにやら視線を感じたような気がするのですが」
「えっと……誰か知り合いでもいた?」
「いいえ」
道行く人がそこそこいるものの、それだけ。
その中に知り合いの顔はない。
「気のせいでしょうか?」
「気のせい、気のせい。それよりも案内よろしく!」
「まったく」
苦笑しつつ、最初の目的地へ向かう。
五分ほど歩いたところで、商店街に到着した。
飲食、衣服、雑貨……色々な店が並んでいる。
「見ての通り、ここが商店街です。他にもいくつかの商店街がありますが、私のオススメはここですね。たくさんのお店があって、お値段もそこそこです」
「おー、確かに色々とあるね」
感心したように頷いて、
「あれ? でも、なんでアリーシャが商店街の情報なんて持っているの? 公爵令嬢……だよね?」
不思議そうに小首を傾げた。
まあ、それも当然の疑問。
普通に考えて、公爵令嬢が商店街に足を運ぶことはない。
商店街で手に入るようなものは、誰かに任せるのが一般的だ。
衣服や化粧品は自分の目で見たいから、足を運ぶことはあるものの……
それは例外ということで。
「フィーが料理好きなので、よく商店街に足を運んでいるんです」
フィーも公爵令嬢なので、自分で料理をするなんて普通はありえないのだけど……
でも、彼女にとって料理は趣味のようなもの。
最初は、公爵令嬢がキッチンに入ることを良しとされなかった。
でも、フィーが料理をしたいというのなら、私はなんでもしよう。
というわけで、ゴリ押しをしてフィーが料理をすることを認めさせて……
ついでに商店街で買い物することも許可させた。
父さまと母さまを始め、大多数の人が疲れたような顔をしていたのだけど、気にしない。
全てはフィーのため。
「なるほど。言われてみると、シルフィーナちゃんって料理が得意そうだよね」
「はい。フィーの料理は、それはもうおいしいですよ。そこらのお店に負けないほどで……いえ、むしろ勝っていますね。圧勝ですね」
「ふふ」
突然、ネコが笑う。
「どうしたんですか?」
「ううん。本当に仲が良い姉妹なんだなあ、って」
「当然です。あのようなかわいい妹がいたら、仲良くならないと損ですよ」
最初は、破滅回避のために仲良くしようとか考えていたのだけど……
最近はわりと気にしていない。
フィーはかわいい。
かわいいから愛でる、仲良くなりたい。
それだけだ。
「私も……」
「ネコ?」
「なに?」
一瞬、憂鬱な表情を見せたような気がしたのだけど……でも、今はにっこり笑顔だ。
気のせいだったのだろうか?
「次、案内してくれる?」
「はい」
ネコに促されるまま、次の場所へ向かう。
――――――――――
「普通に案内をしているな」
「けっこう楽しそうにしているね」
そっと様子を見るアレックスとジークは、そんな感想をこぼす。
「「むう」」
二人の男は微妙な顔になる。
ネコといるアリーシャは、とても楽しそうな顔をしていた。
自分といる時は、そんな顔を見せていない。
相手は女性。
でも、モヤモヤする。
ついつい軽く嫉妬してしまうアレックスとジーク。
そして、ここにも一人。
「アリーシャ姉さま……うぅ、すごく楽しそう」
シルフィーナはジト目になり、子供っぽく頬を膨らませていた。
とても素敵な姉なのだから、アリーシャに友達がいることは当たり前。
一緒に出かけることも当たり前。
でも、どこかモヤモヤしてしまう。
自分だけに笑顔を向けてほしいと、子供っぽい嫉妬を覚えてしまう。
親を独占したいという、兄弟がいる子供のような感情だ。
ただ、シルフィーナはそのことを自覚していない。
そして、今まで受け身ばかりだったのだけど、ここに来てアリーシャに強い感情を寄せていることも気づいていない。
「むぅー……」
シルフィーナは唇をへの字にしつつ、二人の様子をこっそりと観察するのだった。