フィーの心を癒やすためには、どうすればいいか?
 望まれた存在であることを知ってもらうためには、どうすればいいか?

 やはり、鍵は誕生日だろう。
 おもいきり、心の底から祝福して……
 そうすることで、フィーに自身の在り方というものを、しっかりと捉えてほしい。

 ただ、普通の誕生日パーティーを開いても、あまり意味はないだろう。
 あの日記を見る限り、かなり重傷だ。
 誕生日パーティーを開いても、義理だから、なんて思われかねない。

 私達が本気であることを知ってもらわないといけない。
 伝えないといけない。

「やはり、サプライズでしょうか? その方が驚きも喜びも増すでしょうし……ですが、隠し通すことはなかなかに困難ですね。隠そうとして、よそよそしくして、それでフィーを傷つけてしまっては本末転倒ですし」

 私は一人、部屋でフィーの誕生日パーティーについて考えていた。
 シンプルなものから凝ったものまで、十数パターンを考える。

 しかし、なかなか「これだ!」というアイディアが思い浮かばない。
 どうすれば、フィーの心を揺さぶることができるのだろうか?

「こんな時、自分が悪役令嬢なのが悔しいですね……ヒーローならば、きっと、完璧に解決してしまうはずなのに」

 この時だけ……
 私を悪役令嬢に転生させた神さまを少しだけ恨んだ。

「プレゼントの内容にこだわるべき? でも、どのようなものにしたら……」
「お嬢さま」

 コンコンと扉がノックされて、メイドの声が聞こえてきた。

「どうぞ」
「失礼いたします。お客さまがお見えになっております」
「客?」
「アレックスさまとジークさまです」

 あ、と思った。
 そういえば、途中で二人を放り出していた。
 気になって追いかけてきた、というところだろう。

 でも、ちょうどいい。
 フィーの考えていること、全部を打ち明けるわけにはいかないけど……
 誕生日のことプレゼントのこと、二人にも意見を聞きたい。

「この部屋に通してください」
「かしこまりました」

 メイドは一礼して、部屋を後にした。
 待つこと五分ほど、アレックスとジークがやってきた。

「ったく……いきなりどこかに行ったかと思えば、家に帰っているなんて。俺達がどれだけ慌てたことか」
「ごめんなさい。どうにしても気になることがあったんです」
「その問題は解決したのか?」
「いえ……問題の内容を正確に把握することはできましたが、解決方法に頭を悩ませているところですね」
「それは、シルフィーナのことか?」

 さすが幼馴染、鋭い。

「よかったら、僕達にも事情を教えてくれないかな? なにかしら、役に立てるかもしれない」
「はい。ちょうど、思考に行き詰まりまして……力を貸していただけると幸いです」

 そして私は、詳細は伏せつつ、フィーが心の奥底で寂しさを抱えていることを打ち明けた。
 誕生日でどうにかしたいと思っているものの、なかなか思いつかないことも話した。

「シルフィーナのヤツ……そんなことに」
「なかなか難しい問題だね。心っていうものは、ここをこうしたら解決するとか、数学のように明確な答えはないからね」

 事の重大さを理解した様子で、二人の顔も暗いものに。

「私なりに色々と考えたのですが、プレゼントにこだわりたいと思うのです」
「それはどういう?」
「プレゼントは、送る人の気持ちが詰まっているじゃないですか? だから、とても良いプレゼントを選び、それをフィーに贈ることで、こちらの気持ちをわかってもらう……それが一番だと思うのです」
「なるほどね……うん、悪くないアイディアだと思うよ」
「ただ問題は、なにを贈るか、ってことだろ?」
「はい……色々と考えたのですが、なかなか思い浮かばなくて」

 私の言葉を受けて、アレックスとジークもプレゼントについて考える。
 先ほど、店を見て回った時とは違い、ずっと真剣に頭を悩ませる。
 それでも良いアイディアが出てこなくて、三人揃って、難しい顔をするだけで時間が流れてしまう。

「これがいい、というのはわからないけど、やっぱり記憶に残るようなものがいいんじゃないかな?」

 ややあって、ジークがそんなことを言い出した。

「彼女が途方もない寂しさを抱えているというのなら、それを上回るような強い希望が必要だ。そうなると、やはり、大きなインパクトを与えられるプレゼントがいいだろうね」
「それは、つまり……お金に糸目をつけない、とか?」
「そうだね。あえて高額なプレゼントを選び、こちらの本気度を伝えるというのもアリかな?」
「シルフィーナの場合、逆に萎縮するだろ」
「幼馴染のきみがそう言うのなら、そうなんだろうね。なら、金額は気にすることなく、インパクトを与えることができるものを一番の基準にするのはどうだろう?」
「そうですね……アリかもしれません」

 でも、どうすればインパクトを与えられるのか?
 高額なものでは意味がない。
 かといって、そこらにありふれているものでは新鮮さは皆無で、やはり意味がないだろう。

「アレックスは、フィーの好きなものとか知りませんか?」
「そうだな……ちと幼いところがあるからな。昼に行った、ぬいぐるみとか好きだと思う。そういうかわいいものが好きなんだ、アイツは」
「なるほど」

 特大のぬいぐるみでもプレゼントしようか?
 いや。
 インパクトはあるかもしれないが、心に響くかと言われたら、そうでもないような気がする。

 彼女の心に訴えかけなければいけないのだ。
 それにふさわしいものを選ばなければいけない。

「他に、フィーが好きなものはありませんか? なんでもいいです」
「んー……今も言ったが、かわいいものならなんでも好きだな。けっこう、少女趣味なんだ、アイツは。あとは、勉強道具とかも好きだな」
「勉強道具? 女の子らしからぬものを好むんだね」
「しっかり勉強したい、っていう真面目タイプだからな。あとは、ものじゃないが綺麗な景色とか。そうそう、花も好きだな。あとは、甘いものだな。クッキーが一番の好物だ」
「クッキー……ですか?」
「ああ。なんでも、小さい頃に作ってもらったことがあるらしい。その時の話は、俺も詳しくは知らないんだけどな」
「……それは、そうなると……」

 かわいいものが好き。
 花が好き。
 甘いものが好き。
 小さい頃に作ってもらったことがある。

「……」

 アレックスから聞いた話が、頭の中でパズルのように組み立てられていく。

 そして、一つの答えを導き出した。

「そっか、これなら……」
「なにか思いついたのかい?」
「はい。一つ、良いアイディアを思いつきました」
「僕にできることは?」
「あります。あと、アレックスにも手伝ってほしいことがあります」
「俺に? もちろん、できることがあるならなんでもやるが……無茶なことじゃないだろうな?」
「なんですか、その目は。まるで私が、日頃、無茶をしているようではありませんか」

 アレックスとジークが、しているだろう、というような顔になる。
 どうして、ジークまで?
 解せぬ。

「とにかく、お願いします。フィーのために、がんばらないといけないんです!」