「……なんで、こんなことになっているんだ?」

 放課後。
 一緒に街を歩いていると、アレックスが不機嫌そうに言う。

「なんのことですか?」
「買い物に付き合う約束はしたが……でも、コイツがいるなんて聞いてないぞ?」

 アレックスが睨みつける先に、ジークの姿が。
 彼は睨みつけられているのだけど、気にすることなく、涼しい顔をしていた。

「シルフィーナは僕の友達でもあるからね。誕生日とあれば、もちろん、祝うよ」

 さも当然のように、ジークは言う。

 うんうん、わかっているね。
 かわいいフィーのプレゼントを選ぶというのだから、直接、自分の目で確認することは当たり前のことだ。
 だから、一緒に買い物へ出るのは当然のこと。

 ……なのだけど、アレックスは不満そうだ。
 ジークは王族なので、そのことに不満を抱いているのだろうか?

「では、行きましょう」

 二人の仲は悪そうだけど、心配はしていない。
 彼らヒーローは、最終的に、どのルートでも悪役令嬢を断罪するために一致団結して、かけがえのない友達になる。
 今は衝突していたとしても、やがて仲良くなるだろう。
 だから心配不要。

 それよりも今は、フィーのプレゼントを選ぶことの方が大事だ。
 かわいいかわいい妹が心から喜んでくれるような、そんなプレゼントを選ばなければ。

 歩くこと少し、商店が並ぶ通りに到着した。
 金細工からぬいぐるみまで、色々な店がある。
 放課後とはいえ、これだけたくさんの店を全て見ることはできない。
 かといって、どの店に良いプレゼントがあるかわからない。

「なあ、アリーシャ。そこのぬいぐるみ店に入ってみようぜ」
「アリーシャ。そこのアクセサリーショップに入らない?」

 アレックスとジークの意見がバラバラに。

「おいおい、あんたの目は節穴か? ぬいぐるみの方がいいだろうが」
「きみの目こそ節穴かな? 女の子は、アクセサリーの方が喜ぶよ。ぬいぐるみが悪いとは言わないけど、子供の趣味じゃないかな」
「あんだと?」
「なにか?」

 にらみ合う二人。
 このヒーロー達、本当に後々で和解するのだろうか?
 協力するのだろうか?
 今の二人を見ていると、少し不安になる。

 でもやっぱり、今はフィーのプレゼントを優先しないと!

「とりあえず、二つ共、見て回りましょう」
「まあ……」
「アリーシャがそう言うのなら」

 二人共、納得してくれたようなので、まずはぬいぐるみ店へ。

 広い店内に、猫、犬、亀、鳥……などなど、様々なぬいぐるみが陳列されていた。
 大中小のサイズに分かれていて、それぞれ値段も異なる。
 二体セットで一つという、珍しいぬいぐるみもあった。

「色々な種類がありますね。こんなお店なら、フィーが喜んでくれるようなぬいぐるみもあると思います」
「だろ?」
「くっ……」

 アレックスが得意そうな顔になり、ジークが悔しそうな顔に。
 本当にこの二人、対照的だ。

「少し見て回りましょうか」

 店内を歩いて商品を見る。
 フィーにプレゼントするとしたら、どのぬいぐるみがいいだろう?
 子供っぽいかもしれないけど、でも、時折幼い仕草を見せるなど、反則級のかわいさを見せている。
 そんなフィーなら、ぬいぐるみも喜んでくれるかもしれない。

「なあ、アリーシャ。俺達で、最高のプレゼントを探そうぜ」
「そうですね」
「ぐっ」
「でも……せっかくだから、アクセサリーショップも見ておきたいですね。せっかく、ジークさまが選んでくれたのだから」
「ぐっ」
「ふふん」

 悔しそうな顔になるアレックス。
 得意げに笑うジーク。
 そんな二人と一緒に、一度ぬいぐるみ店を後にして、それからアクセサリーショップへ。

 こちらは、ぬいぐるみ店に比べると少し狭い。
 でも、取り扱っている商品がアクセサリーなのでスペースをとらないため、特に問題はないようだ。
 ブレスレット、ネックレス、指輪、イヤリング……たくさんの商品が陳列されている。

「色々あって迷いますね……ジークさまは、どれがいいと思いますか?」
「そうだね。僕なら、このネックレスがいいんじゃないかと思うよ。シルフィーナによく似合うと思わない?」
「あぁ、なるほど。確かに。フィーによく似合いそうですね。ありがとうございます、ジークさま。とても参考になりました」
「ううん、どういたしまして。アリーシャの役に立てたのなら、よかったよ」
「ぐぐぐ」

 ジークがニヤリと笑い、それを見てアレックスが歯がゆそうな顔になる。
 さきほどと立場が逆転しているのだけど……
 それにしてもこの二人。
 さきほどから、なぜ対立しているのだろうか?

 フィーのプレゼントを選ぶのは自分だ、と張り合っているのだろうか?
 さすが、フィー。
 メインヒロインだけあって、争わせてしまうほどに、ヒーロー達の心を虜にしているのだろう。

 姉として鼻が高い。
 でもやっぱり、お嫁には出したくないから、その対策も今度考えておかないと。
 フィーは、私と一緒に、ずっと仲良くイチャイチャして過ごすのだから。

「でも……うーん、迷いますね」

 ぬいぐるみか、アクセサリーか。
 どちらもとても良いものだけに、なかなか決断ができない。

 いっそのこと、二つともプレゼントしてしまおうか?
 それくらいのお金はあるのだけど……
 いや、でもそうしたら、フィーは遠慮して困ってしまうような気がする。
 あの子、妙なところで一歩引いているというか、わがままを言ってくれないのだ。
 妹なのだから、多少のわがままは、むしろ歓迎するのだけど。

「ふむ?」

 考えてみると、おかしなことに気がついた。

 フィーはわがままを言わない。
 それどころか、自己主張をすることすらない。

 例えば、夕飯はなにが食べたい? と聞いても、自分の主張を口にしない。
 私の好きなものとか、なんでも大丈夫ですとか……決して自分の望みを答えない。
 夕飯のリクエストに限らず、他の場面でも、同じく自己主張をしていない。

 遠慮している?
 そういう性格だから?

 でも、それだけではないような気がした。
 そんな言葉で片付けてはいけないような、なにか、が隠されているような気がして、落ち着かなくなる。

「なあ、アリーシャ。もう一度、ぬいぐるみ店に行ってみないか?」
「ぬいぐるみよりも、アクサセリーの方がいいよ。ここで決めてしまおう」
「……ごめんなさい、二人共。私、急用を思い出したので、ここで帰りますね」
「「えっ」」

 フィーのことが気になって気になって仕方なくなった私は、急いで家に帰ることにした。