「アリーシャさま、おはようございます」
「おはようございます、エスト」

 朝。
 登校中にエストと出会い、笑顔で挨拶を交わす。

 他のヒーロー達とは、マイナス状態になっているのだけど……
 エストとは良い感じの関係を築くことができていた。

 彼を攻略するのもありかもしれない、なんて思うのだけど……
 ただ、打算で恋愛をするというのは、どうにもこうにも向いていない。

 打算で恋愛をしても長続きせず、途中で冷めてしまいそうだ。
 そうなったら、待っているのは愛のない恋愛生活。
 辛い。

 それ以前に、エストに失礼すぎる。

 だから、ゼノスを攻略することにしたのだけど……

「……逃げられましたね」

 あの日以来、ゼノスは私の前に姿を見せていない。

 私に攻略されそうなので逃げているのか。
 私を追い込むために姿を消しているのか。

 どちらかなのかわからないが、まずい状況だ。

 どうにかしてあの邪神を引っ張り出して、攻略しないといけない。
 さて、どうしたものか?

「アリーシャさま?」

 気がつけば、エストがこちらの顔をじっと見ていた。

「あ……すみません。少し考え事をしていました」
「難しい顔をされていましたが、なにか悩みごとですか?」
「いえ、そういうわけではありませんよ」

 エストは優しい。
 私が悩んでいると知れば、協力を申し出てくれるだろう。

 それは、正直すごく助かるのだけど……
 今はエストとどう向き合えばいいのかわからないので、ひとまずは保留だ。

「ところで、シルフィーナさまは?」
「フィーですか……」

 最愛の妹のことを思い返して、声が沈んでしまう。

「風邪を引いてしまったみたいで……」
「そうだったんですか……早く良くなるといいですね」
「ありがとうございます」

 早くゼノスを攻略しないといけないのだけど……
 妹が風邪を引いたとなれば、話は別だ。

 一分一秒でも早くフィーの風邪を治すために、姉としてできることをしないと。

「少し聞きたいのですが……エストは、風邪に効くものを知っていませんか?」
「そうですね……いくらか薬草は知っていますが、それはたぶん、すでに使っていると思うので……ハーブティーとお菓子などはどうでしょうか?」
「ハーブティーとお菓子?」
「どちらも、体の免疫力を上げる薬草が使われているものなんです。薬ではないので、すぐに風邪が治るわけではないのですが、失った体力を補充できると思います。あと、飲みやすくて食べやすいので、風邪を引いた時にはぴったりかと」
「それはいいですね。どちらで売っているのか、教えていただけませんか?」
「そ、それなら、今日の放課後、案内します!」
「いいのですか?」
「はい、もちろん!」

 食い気味に了承された。

 はて?
 店の場所を教えてもらうだけで十分なのに、わざわざ案内してくれるなんて……

 なるほど。
 さては……先日のお礼をしたい、というわけだな?
 そのために、どうしても案内をしたいのだろう。

 うんうん。
 エストはとても律儀な子だ。
 こんな子に好かれる女性は幸せものだろうな。

「では、放課後、お願いします」
「はい!」



――――――――――



「あ、アリーシャさま!」

 教室を出たところで、エストの姿が。

 あれ?
 彼は学年が違うから、こんなところにいるわけがないのに。

「エスト、どうしてここに?」
「えっと、早くアリーシャさまに……い、いえ! お待たせするわけにはいかないと
思い」
「そうですか。気遣い、ありがとうございます」
「いえ! で、では行きましょう」
「はい」

 妙に緊張しているみたいだけど、なんでだろう?

「……」

 違う学年の教室が並ぶ階に来ているから、緊張しているのだろうか?

 なるほど。うんうん。
 エストは飛び級をするほど頭が良くて、大人っぽいところがあるのだけど……
 子供らしいところもあるじゃないか。